第38話 合法な商売と、欲望のための戦争

 アンドレーは、森の中を歩き回り、べつの2人連れをさがした。


 さっきの狩人の言っていたことからわかるように、メイルストーの街では、アクスバードを闘わせる見世物が流行っているようだ。


 だから、見世物に使うアクスバードがたくさん必要であり、需要が高い。


 その需要に答えて金儲けを考える者共による乱獲が行われている。


 それが結果的に、エディタのようなケースをうみ、娼婦街のお店が儲かっている。


 風が吹けば桶屋がもうかる、といった感じで、アクスバードの見世物の繁盛が、予期せぬ余波をうみ、さまざまに影響を与えている。


 誰かを笑わせるために、誰かが泣いている。


 今日も朝早くから狩人とウィザードのペアが、森の中にいた。あちこちで乱獲作業をしている。


 アンドレーが、あるペアのそばへ行き、話しかけた。


「アクスバードの相場はいくらじゃ?」


 このペアは両方とも陽気な感じであった。


「1500Gだ」


 狩人の男が答えた。


 これぐらいの金額だと、この森で一ヶ月乱獲を頑張れば、そこそこいい家が買える。


「そんなに稼いでどうするんじゃ?」 


 ウィザードがニコニコしながら答える。


「俺たち投資家になろうと思ってんだ。


 そしたら、もう危険できついクエストなんかやらなくても、楽して暮らせるからな。


 あんたもアクスバードの捕獲に参入する気かい?


 もしそうなら、いい買い手を紹介するぜ」

 

 アンドレーがたずねる。


「おぬしらは、自分のやっている仕事が、自分の幸せに繋がっていると思っているか?」


 ペアが不思議そうな顔をして小首をかしげた。


「そりゃ思ってるさ。


 金持ちになって大きな家に住めりゃ幸せだろう」


 彼らは、真剣に答えたわけではなく、ただなんとなく言った感じであった。


 自分とは無関係の異国の政治についての意見を求められているような、そんな顔をしていた。


 他人事を聞かされているような目をしていた。


 アンドレーが言った。


「豪邸の外から人の泣き声が聞こえても、快適に暮らせるか?」


 2人は、さらに小首をかしげる。狩人は困ってたずねた。


「ねぇ、なんの話がしたいのさ。


 俺たち暇じゃないんだけど」


 アンドレーは遠まわしな話をやめて、言いたいことを素直に言った。


「アクスバードの乱獲によって魔獣の生態系が乱れ、この近くのハンディストー村の人たちが生活できなくなっている。


 魔獣の乱獲をやめていただきたい」 


 2人の表情が急に曇った。


 金儲けを邪魔されそうになっているのだ。


 当然だ。


「俺たちだって生活をかけて魔獣の捕獲をやってるんだ」


 狩人がいうと、アンドレーが威圧的に言い返した。


「言葉をすり替えるのはよすのじゃ。


 おぬしらがかけているのはではなくてただのじゃ。


 そして、やっているのは魔獣のではなく


 生活をかけた捕獲ではなく、贅沢のための幼稚で醜い環境破壊じゃ」


 そんな言い方をされて、2人は一気に不機嫌になった。


 狩人が言った。


「べつに国からは止められていない。


 つまり俺たちは合法的なことをしている。


 お前がどこの誰だか知らないが、俺たちのやっていることをとやかく言われる筋合いはない」


 アンドレーが言い返す。


「我は不名誉のチートなり。


 ゆえに国の法など用事がない。


 我は我の性欲のためだけに行動する。


 貴様らの行いのせいで、我の性欲を満たすであろう娘の生活が危なくなっている。


 だから、我は法の内外関係になく、娘を守る。


 合法だからという理由で毒を撒き散らす人間は、例え金持ちになっても絶対に幸福にはなれぬ。


 幸福になる見込みのない人間など生きていても無価値。


 いますぐ乱獲をやめると誓わなければ、涅槃の名のもとに……もとい、煩悩の名のもとに、貴様らと戦争をする」

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