第37話 死の商売道具

 アンドレーが冷たい目をしながら言った。


「人は山に憧れ、登る者が多いが、住む者はいない。


 なぜなら山の環境は人間には厳しいからじゃ。


 メイルストーは山そのもの。


 あそこに住めば幸せになれると思い、たくさんの人間がよってくるが、来た者は片っ端から貴様らのような脳みそにウジが沸いたクズになっていく。


 都市は、まともな状態で住むには環境が厳しすぎる。

 

 じゃからこそ村が必要なのじゃ。


 都市に夢を見、夢に血を吸われて心身がボロボロになって、そしてふるさとを求めて村に帰ってきてまともな精神を取り戻す。


 ふるさとの原風景に涙して、まともでいられることがどれだけ大事でありがたいことかを思い知るのじゃ。


 村はそのために必要なのじゃ」


 アンドレーは切り取った舌を地面に放り投げた。


「舌を失ったことで、貴様は食を楽しめなくなった。


 食欲が落ちれば体力も衰退して、さまざまな享楽を楽しめなくなるじゃろう。 


 じゃが気を落とすことはない。


 グルメや享楽から離れれば、いかに貴様が人の心を失った悲しい人間なのかがわかるであろう」 


 アンドレーは、狩人の腰からハローエネミーを取り上げた。


 魔獣を引き寄せる魔の呼び鈴。


 乱獲で大儲けをしていた彼らの商売道具だ。


「自分が何を失ったのかを思い出したければ、いちど村に行って、質素ににこやかに暮らしている人としゃべってみるといい。


 大事なことが見えてくるじゃろうから。


 むろん、生きてこの森を出られたらの話じゃがな」


 アンドレーがハローエネミーをブンブンと振り回して、盛大に鈴を鳴らした。


「あぁ…あぁぁぁ!」


 狩人は舌を失っているから言葉を言えなかった。


 なんだか、アンドレーに鈴を振るのをやめろと叫んでいるような感じだった。


 さて、鈴につられてたくさんのアクスバードがやってきた。


 一匹、二匹、三匹……。


 数えれば数えた分だけ増えていくような感じだった。


 負傷した狩人と、ショックショットで麻痺状態のウィザード。


 おそらくこの場でこの数の魔獣を相手にできるのはアンドレーだけだ。


 しかし、そのアンドレーが、すばやくその場から逃げ去っていった。


 魔獣がグルになって囲い込んで、その中心には戦える状態にない2人が取り残された。


 アンドレーは、去り際に、こんな言葉をひとりごちた。


「商売道具は商人の命じゃ。


 人の命を奪う道具で商売をすれば、その報いは必ず返ってくるのじゃ」


 彼が去ったあと、その場所には、ぎゃああああ!という悲鳴が迸った。


 その悲鳴は、魔獣のものなのか、人間のものなのか見分けがつかない、おそろしいものだった。


 とにかく、断末魔を予感させる地獄的な叫びだった。


 

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