第36話 怒りに任せた舌の運命

 狩人は、近寄るアンドレーが不気味に思えた。


 反則技を悪びれることなくやってのけるアンドレーが、サイコな魔獣のように思えた。


「この違反野郎!」


 叫びながら、また弓を構えて引いた。手と弓が青く光る。


 至近距離だから、狙いを定めるのに時間はかからない。


 弓を撃ち出そうとしたときだった。


「スローダウン & 突貫殺とっかんさつ


 時空魔法と格闘家のレイヤードスキル。


 アンドレーのかざした手から時空の糸が放たれて狩人に絡みついた。 


 スローになる狩人。


 懐に飛び込むアンドレー。


 狩人の弓が放たれる前に、アンドレーの突貫殺とっかんさつの飛び込み右ストレートが炸裂した。


 狩人は吹き飛ばされ、真後ろの木に背中を打ちつけて止まった。


 衝撃で、息が止まった。


 アンドレーが、狩人にじりじりと歩みよった。


「おぬしは暴力が好きか。


 ならばおぬしの好みに合わせよう。


 暴力をもって、おぬしらの乱獲を阻止させてもらう」

 

 アンドレーは、狩人の胸ぐらをつかんだ。


 そして、ドスッ! ボディーブローを入れた。


「ガァッ!」


 もう一発。ドスッ!


 狩人が苦しまみれに言った。


「なんで……、アクスバードを捕獲しちゃいけないんだ」


「我は取るなと言ったのではない。


 乱獲をやめていただきたいとお願いしたのじゃ」


「魔獣だろ?


 人間に害をなす害虫じゃないか。


 それを獲ってなにが悪い」

  

「どんな害が生じている?」


「どんなって、街道を行き交う旅人たちを襲うじゃねぇか」


「街道には特殊な加工が施されているらしいからその心配はない」


「他にどんな実害が生じている?」


「・・・・・」


 狩人は沈黙してしまった。


 わけを話せぬ特別な事情がありそうだ。


 アンドレーが言った。


「アクスバードの数が減ったせいで、魔獣の中の捕食関係のバランスがくずれ、ミドルワームという魔獣が大量発生している。


 そのせいで、ハンディストー村の魔香草栽培産業が壊滅し、生活のために村の女が身売りをせねばならなくなった。


 我がなぜ、おぬしに乱獲をやめるように願っているのか、これで理解していただけたか?」


 狩人は、殴られた腹立たしさが収まらないようで、こんな憎まれ口を叩いた。


「フン。いいじゃねぇか。


 大都市の娼婦街が一層華やかになる。


 都市の経済が潤うってもんだ」


 アンドレーは黙って聞いている。


 狩人は勢いづいて、口が止まらなくなった。


「これからどんどんメイルストーは繁盛していくんだ。


 たくさんの人間を養っていけるようになる。


 だから小さな貧村なんて飛び出して、みんな都市に住めばいいんだよ。


 村なんかこの先なんの役にもたたねぇ。


 さっさと潰れちまえ!」


 狩人が、アンドレーの顔に唾を吐いた。


 アンドレーは、無表情で狩人を見つめた。


「なんだよ? もう殴るのはおしまいか?


 暴力をもって俺を止めるんじゃなかったのか?


 止めないなら乱獲を続けてやる!


 今メイルストーでは、闘鶏場とうけいじょうの見世物が大はやりだ!


 だから、強いアクスバードを捕獲すれば、高額で買い取ってくれる。


 ちまちましたちんけなクエストをこなすより、こっちの方が大儲けだ!


 ハハハハハハハハハ!」 


 狩人は、甲高い笑い声を森の中に響かせた。


 だが、その笑い声が、悲惨な悲鳴にかわった。


 阿鼻叫喚の悲鳴であった。


 アンドレーが相手の舌を引っ張り出し、剣で切った。


「アァァァァァァァァ!」 


 狩人は地面に倒れ込んでのたうちまわった。

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