第34話 女神に降りかかる災難

 そのころ、天界の女神は上司から緊急の呼び出しを受けていた。


(なによ、緊急呼び出しって。嫌な予感しかしないんだけど……)


 彼女は、ビクビクしながら上司の部屋に行った。


 上司は神官のような服を着ていた。

 

 真面目そうな初老の男性だった。


「クリステルくん。


 君、やってくれたね」


 クリステルはアンドレーを転生させたこの女神の名だ。


(え? やってくれた? わたし、なにをやらかしたんですか?)


「君、このまえ、ソードマジカという剣と魔法の世界にひとりの僧侶あがりの地球人を転生させたね?」


「はい……」


(げッ! アンドレーのことだ。


 あいつ、なんかやらかしたの?)


 ソードマジカとは、アンドレーが現在住んでいる世界の名称だ。


 剣と魔法の世界、ソードマジカ。


 異世界もの好きに人気の転生先。 


 上司が不機嫌そうに言う。


「ソードマジカをつくった創造神からクレームが来ておる」


「クレーム……ですか?」


「元僧侶の彼が、メイルストーという大都市の地下に眠るダークドラゴンという魔獣をそうそうに殺してしまったらしい。


 創造神がつくったシナリオでは、その魔獣は、もう少し眠ったのちに魔王軍団四天王の一人として覚醒する予定だったらしい。


 シナリオが大きく崩れて大迷惑だとご立腹だ。


 さらに、ダークドラゴンは、転生して一ヶ月にもみたない新人が倒せるようなザコではないはずだと言っておられる。 


 クリステルくん、君は彼を転生するときに、いったいどんなスキルを与えたんだね」


「あっ、いや……一応彼の希望どおりに……」

  

「彼はどんな希望を出したんだね?」


「ええっと、不食、不財、不名誉、不眠、イケメン」


「なんだそのスキルは!


 そんな意味のわからないスキルを希望する者がいるわけないだろ!


 仮にも彼は涅槃を得た僧侶だぞ。


 まえの4つは納得できるが、五つ目のイケメンはなんだ?


 転生するときにイケメンスキルを望む涅槃の僧侶などいるわけがなかろう!」


(ダメだ……正直に言おう)


「もうしわけありません。


 彼はもともと不色のスキルを希望していました。


 イケメンスキルが与えられたのは私のミスです」


 上司が腕を組んで怖い顔をした。


「君、いますぐソードマジカへ行って、かの僧侶をリセットしたまえ。


 そして、変なスキルを元に戻したまえ」


「はい……わかりました」


「いいかいクリステルくん。


 この件が片付くまでは天界に戻ってきてはダメだ」


 そうやって、女神クリステルは、アンドレーの元へと強制テレポートさせられた。


(いやだ! もうあのハーレムクソ野郎の顔を見たくない!)

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