第30話 地下サーキットのスピードスター
通路の高さは、アンドレーがぎりぎりで立って歩けるぐらい。
幅は、手を広げれば、両方の壁に触れられる。
一歩を足を踏み入れると、エディタがパタンと尻餅をついてしまった。
「イッタァ!」
アンドレーも、彼女につられてこけそうになった。
通路の床は、油を流したみたいにツルツル滑った。
「フェザー・ボート」
アンドレーが唱えると、二人の体が、まるでボートに乗せられたみたいにプカプカと宙に浮いた。
フェザー・ボートは風属性の魔法スキル。
空気のボートを発生させ、それに乗れば、空中をホバーリングできる。
足元が悪い場面に重宝する便利スキルだ。
二人は、風のボートにのり、滑る床をパスしながら、奥へと進んだ。
すると、だんだんと移動速度が鈍ってきた。
そして、止まったかと思うと、後ろに流されはじめた。
通路には、奥から手前に向かって定期的に風が吹いてくる。
風は、奥に進むほどに強さを増した。
そして、風の強さとともに悪臭も激しさを増していった。
この通路の奥には、風と臭いを発する何かがあるのだ。
いや、いるのかもれない。
進まないわけにはいかないので、アンドレーが剣で壁を突いて、風のボートを前進させた。
エディタも、アンドレーから剣の鞘をかりて、船が進むのを手伝った。
そうやって、しばらく進むと、通路の先から得体の知れない気配を感じた。
エディタの背筋が寒くなった。
アンドレーは、魔獣の接近を察知していた。
サンダー・バブルの泡が照らす先に、ようく目を凝らす。
やがて、魔獣の影が見え始めた。
その魔獣は黒いらしい。
体は大きくないらしい。
目が赤いらしい。
だんだん詳細がわかってきた。
毛が生えている。
四足歩行だ。
ものすごいスピードだ。
群れをなして向かってくる。
「ネズミの魔獣じゃ」
アンドレーが叫んだ。
そのネズミ型魔獣は、あっとういまに二人のいる場所にたどり着き、襲いかかった。
ねずみは、二人の衣服の外と中、肌という肌をところかまわず走り回った。
人の体をサーキットにして走りまわっている。
体を覆う硬い毛が皮膚に傷をつけていく。そこから魔獣毒が染み込んでくる。
「お願いやめてぇー!」
エディタが泣いて喚いた。
彼女は、肌の硬いところ柔いところを容赦なく引っ掻き回された。
それに気づいたアンドレーが激怒した。
(いかん! わが乙女の聖域が!)
「フリーズ・ドライ!」アンドレーの声が迸る。
二人の体にからみつく、十や二十の小魔獣が、瞬時に凍結、そして、粉末になって地面に降り注がれた。
「ネハン・エイド!」
あらゆる体の不調を一度に治す回復スキルで、エディタの毒とデリケートゾーンの赤みが治った。
アンドレーはホッとした。
敵襲は、まだまだ終わらない。
チューチューレーサーの大軍の第二波が押し寄せた。
今度は50匹以上だ。
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