第27話 賢者の目に住む鬼

 アンドレーはエディタの手を引き、牢から飛び出した。


 しかし、もうその頃には、保安局のあちこちで、けたたましいサイレンの音が鳴っていた。


 とうぜんのように、事態を鎮圧するための保安官が差し向けられ、アンドレーに襲いかかることになる。


 拘置所の入口付近の狭い廊下で、アンドレーを待ち受けていたのは、保安官DとEとFの三人であった。


 Dは三日月に似た長刀、Eは薙刀型の武器を、Fは手ぶらだった。

 

 その3人は、Dを先頭にして、縦一列にならぶ戦闘隊形をとった。


 アンドレーから見ると、先頭に立つDの影にかくれてEとFの姿が見えない。


 どんな戦術でくるのかわからず、アンドレーは緊張しながら剣を構えた。


 Dが長刀で斬りかかってきた、かと思うと、武器を寸止めにして、急にしゃがみこんだ。


 すると、その背後から、薙刀の剣先がビュンと伸びてきた。


 Dの背後に身を隠していたEの不意打ちだ。


 アンドレーは、咄嗟に、剣でそれをなぎ払った。


 が、それは、敵の狙い通りの動きであった。


 アンドレーは、自身の脇腹に鈍い痛みを感じた。


 危険を悟った彼は、後ろに飛び退いて安全な距離をとった。


 痛みの場所を確認すると、そこには手裏剣が突き刺さっていた。


 手裏剣を投げたのは、最後衛に構えた保安官Fだ。


 前衛のDのフェイントでつくった隙を、中衛のEが薙刀で突き、薙刀に対処した隙を、後衛の手裏剣で射抜く。


 その三段攻撃をひたすら繰り返し、徐々に相手にダメージを与える戦法だ。


 間髪入れずに、第二撃が繰り出された。


 Dが斬り込んできた。


 同じ対応をすると同じ結果になる。


 アンドレーは別の方法を瞬時に考え出した。


 アンドレーは咄嗟に天井までの高さを目で測った。


 そして、真ん中に陣取るEの薙刀の長さも目測した。


 ふたつの距離の差を瞬時に見極め、彼は、壁を蹴って大ジャンプした。


 Eが、待ち構えていたかのように薙刀を構え、空中のアンドレーを串刺しにしようとした。


 アンドレーは動きを読まれていた。


 アンドレーの動きは、敵の想定内であった。


 しかし、アンドレーの飛翔の高さだけは、敵の想定外であった。


 Eが放った突きは、空飛ぶ賢者には届かなかった。


 はらわたのわずか手前で切っ先が止まった。


 Fが手裏剣を放つも、アンドレーの剣が空中に閃き、あらぬ方向に弾き飛ばされた。


 アンドレーは、Fの目前に着地した。


 剣の使い手と手裏剣の使い手が対峙する。


 両者の距離は、手裏剣の使い手には、あきらかに不得手であった。


 アンドレーの両足が地面を蹴った。


 突進とともに放たれる突きが、保安官Fの利き腕の肩を貫いた。


「ぐぁぁぁ!」 


 彼は、血の轍を残して、後方に吹き飛ばされた。


 アンドレーは、肩に突き刺さった剣を、何の躊躇いもなく引き抜いた。


 Fの悲鳴は悲惨であった。


 アンドレーは踵を返し、二人の保安官に襲いかかる。


 その目には、闇夜に浮かぶ鬼火が燃えていた。


 アンドレーがDに斬りかかった。


 Dも同じように斬りかかった。


 アンドレーは、Dの長刀を剣でうけると、そのままタックルした。


 DとEが団子になって倒れた。


 アンドレーが素早い動きで薙刀を奪って遠くへ投げ捨てた。


 慌てて起き上がったDは、アンドレーの猛攻を受けた。


 アンドレーの剣が、Dの頭蓋を割ろうとした。


 胴を真っ二つにしようとした。


 肩を切り落とそうとした。


 剣の雨を長刀を傘にして凌ぐD。


 しかし、その傘は、アンドレーの剣の豪雨を防ぐには強度が足りなかった。


 長刀が宙を舞った。


 アンドレーに力負けし、空高く跳ね上げられたのだ。


 Dが、空を泳ぐ三日月のような長刀に目をやった瞬間であった。


 彼は気を失った。


 アンドレーの右ストレートが彼の脳を揺らしたのだ。


 Dは凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


 アンドレーは、残ったEを睨んだ。


 やっぱり目には鬼火が燃えている。

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