第25話 アンドレーの肉弾戦!

「保安官に逮捕された人たちは、どこに連れて行かれるのかな?」


「拘置所でございます、王子様」


「それはどっちかな?」


「あちらでございます、王子様」


 彼女は、拘置所の方角を指で指し示した。


 さらに、詳しい道順を懇切丁寧に説明してくれた。


「ありがとう、ハニー」


 アンドレーは、彼女に口づけて、お別れした。


 彼女は、目をハートの形にしながら、アンドレーの後ろ姿を見送っていた。


 ところが、アンドレーが廊下の奥を曲がって姿を消した瞬間、彼女は夢から覚めたみたいにいきなり真顔に戻った。


 そして、キョトンとしながら独り言を言った。


「あれ? わたし、何してたっけ?」


 アンドレーは、さっきの女の案内を手がかりに、エディタが拘束されているであろう拘置所の中へやってきた。


 拘置所の敷居をまたぐと、空気の層が変わったのを感じた。


 妙に暗く感じるのは、照明の弱さのせいだけではない。


 年季を感じさせる天井と壁。窓ガラスは汚れて曇りがち。


 歩くたびにひどく軋む床板。


 清潔でない匂いが充満する廊下。


 そこは、活気というものを知らない陰鬱な異世界といった感じであった。


 ここはさすがに堂々と進むことは許されない雰囲気だった。


 いくら制服姿でも、見ない顔が立ち入ると止められてしまいそうな緊張感がある。


 アンドレーは、うまく立ち回り、誰にも鉢合わせしないように奥へと進んだが、やがて、難関にぶつかった。絶対に通らないといけない鉄格子の扉があって、そこには見張りが二人立っている。


 穏便な手段が通用するのは、そこまでであった。


 アンドレーは、見張りに近づいていった。


 案の定、怪しまれて呼び止められた。


「おいお前。どこの配属だ?」


「極楽浄土じゃ」 


 アンドレーのへんてこな答えに、二人は小首をかしげた。


 次の瞬間。


 アンドレーの左拳が、見張りの腹を直撃した。


 風のようなボディーブローは、あざやかなクリティカルヒットであった。


 拳を喰らった見張りが、爆破解体のビルのように垂直に崩れていった。


 もうひとりの見張りが、慌ててすぐ近くの非常ベルを押して、応援を呼ぼうとした。


 だが、それは叶わなかった。


 アンドレーは、くずおれた見張りから手錠を奪うと、片側の輪っかを、もうひとりの見張りの片手にハメた。


 手首のスナップを使った、投げ縄のような早業であった。


 その後、なにが起きたのかよくわからないが、とにかくアンドレーが電光石火の速さで動き回った。


 きがつくと、二人の見張りは身動きのできない状態にさせられていた。


 互いの手足が支離滅裂に絡みあって、解けないように手錠で固定されている。


 さらに、延髄に手刀を喰らって、気絶させられていた。 


 アンドレーは、見張りから鍵を奪い、鉄格子の扉を開いた。


 彼は、ここから先は、容赦ない実力行使で突き進む覚悟であった。

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