第24話 封じえぬチートスキル

 アンドレーは、頭脳を働かせて作戦を練った。


 十秒ぐらいで考えがまとまったようだ。


「最も手っ取り早い方法にする。


 おぬらは風伝局ふうでんきょく(風伝とは、風魔法スキルを使って情報を伝達する通信手段。風伝局とは、それをやってくれる公共機関)へ行って旅立ちの村からエロイーズを呼び寄せるのじゃ」


 3人娘の顔に緊張が走った。


 彼女たちは「手っ取り早い方法」と「エロイーズ(ハーレムのお局様)」のふたつのキーワードから、彼がどんな手段を取ろうとしているのかを推察した。


(あらら……、保安局が戦場になる)


 3人とも、そんな風に思っていた。


 アンドレーは影から飛び出して、保安局に向かって駆け出した。


 3人娘も、風伝局に向かって走り出した。 


 保安局は、四方を高い壁に囲まれている。


 凶悪犯の脱走を防ぐための防護壁だろう。


 耐魔加工された金属の壁は、魔法にも物理攻撃にも強い。


 アンドレーは、まっすぐ保安局に向かったかと思われたが、そうではなく、寄り道をしていた。


 商店が並ぶ通りを、買い物客の波に紛れてフラフラ歩いている。


 一体なにをしているんだ?


 はやくエディタの救出に向かわなくてもいいのか?


 彼は、前方からパトロール中の保安官が来るのを発見すると、目を光らせて、その保安局に近寄っていった。


 そして、話かけた。


「おまわりさん、さっきあそこで人が倒れているのを見たんじゃ。


 一緒に来てもらえんかのぅ?」


 アンドレーが言ったのは真っ赤な嘘だ。


 彼はそんなものは見ていない。


「本当か? どこだ、案内してくれ」


 保安官は、アンドレーの嘘を見抜けなかった。


 彼はまんまとアンドレーの誘導に引っかかった。


 アンドレーは、明るい通りから離れて、人気のない暗い場所に保安官を案内した。


 建物の間の狭い路地だった。


 保安官は、路地の先を訝しげに見つめながらたずねた。


「おい、どこに人が倒れているんだ?」 


 彼の背後から、低く冷たい声が聞こえた。


「ここだ」


 ドスッ! アンドレーの空手チョップが保安官の後頭部を打った。


 ガハッ……彼は、白目を剥いて地面にくずおれた。


 アンドレーは、保安官から奪った制服を身につけた。


 さらに、用意していた縄で、裸の保安官を緊縛し、猿轡まではめた。


 路地を抜け出て、明るい場所に出てきたアンドレーは、いかにも保安官然とした振る舞いで颯爽と歩いた。


 数分後、彼は、保安局の入場ゲートの前にいた。


 駅の改札みたいなゲート。


 彼は、保安官から奪った制服のポケットに入っていた身分証をゲートの守衛にみせた。


「ご苦労」


 守衛は、目の前の男が、保安官になりすました偽物だと気づかずに入場を許した。


 ゲートをくぐった瞬間、肌にピリリと、静電気に触れたような違和感を感じた。


 これはきっと、オリーヴィアが言っていた結界だ。


 ここから先、特殊スキルは使えない。


 アンドレーの武器は、転生時に選択した五つのデフォルトスキルと、保安官から奪った警棒のみだ。


 建物に入った。エントランスすぐのロビーで制服姿の職員と次々にすれ違った。


 アンドレーは制服の帽子を深くかぶり、なるだけ下を向いて顔を隠した。


 だれも、彼を怪しがる者はいなかった。


 ロビーを抜けて、狭い廊下を歩いていると、目の前から地味目の若い女が歩いてきた。


 男慣れしていなさそうな、田舎風の女だ。


 アンドレーが、爽やかスマイルと爽やかヴォイスで女に話しかけた。


「ごめん、ちょっと聞いてもいいかな?」


 話しかけられた女の顔が、花が咲いたように赤くなった。


 アンドレーは、いきなり彼女に壁ドン、股ドン、顎クイし、目から甘い殺人光線を発射した。


 すると、彼女の全身の毛穴がひらき、禁断のホルモンが放出され、目はとろけてドキドキランランしていた。


 チートスキル『イケメン』発動だ。


 女は、その視界の中で、薔薇の花吹雪の幻覚を見ていた。

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