第23話 アンドレーのやり方
侵入者の正体はアンドレーだった。
片手に握っている拳から血が滴っていた。
老婆は、それが誰の血で、侵入者がどれだけ恐ろしい奴なのかをすぐに理解した。
この宿では、荒事が起きたときにそなえて、腕のたつ用心棒を雇い、常駐させている。
乱暴な客や、不審者がやってきたら、その用心棒が手合いするのだ。
ということは、不審者がここまでやってくるには、その用心棒を倒さなければならない。
「あ……あんた、何者なんだい」
老婆が、真っ青な顔で言った。
「我に名乗るのほどの名はない。
それよりも、エディタはどこじゃ?」
「い……いますぐ出ていかないと、ほ、保安官を呼ぶよ」
「怪我人が増えるだけじゃからよしたほうがいい。
なぁ、エディタはどこじゃ?」
老婆が、従業員に目配せをした。通報しろの合図だ。
合図を受けた彼は、アンドレーを脇をすり抜けて部屋の外に逃れようとした。
が、アンドレーの殺気のこもった視線を感じて、腰が抜けてしまった。
その場にへたり込んで動けなくなった。
アンドレーが腰の剣を抜いた。
老婆がヒャッと悲鳴を上げた。
「色んな店を聞いて回ってここにたどり着いた。
エディタがここにいることは知っている」
彼はしゃべりながら歩き、老婆の目の前まで来た。
背の高い彼の体が電灯の明りを遮ったせいで、老婆の顔は真っ暗になった。
アンドレーが剣を振り上げた。
「これが最後の質問だ。
エディタはどこだ」
老婆は、恐ろしさのためにヘナヘナとくずおれた。
「あの娘は、もうここにはおらん。
今さっき保安官に連行されおった」
彼女の声は、病床の末期患者のように震えていて、危うかった。
アンドレーは、眉間にしわを寄せて、踵をかえし、部屋を出ていった。
部屋は、しばらくのあいだ、戦争のあとの廃墟のように静まり返っていた。
ちょとしてから、従業員の男がなんとか動けるようになった。
店の入口の様子が気になって、確認にしにいった。
彼はまたそこで身動きができなくなった。
客をもてなすためにお金をかけてつくりこんだエントランスが、沈没した豪華客船の中みたいな哀れな光景に変貌していた。
立派なシャンデリアは墜落して大破し、床に敷かれた高級絨毯はあちこち切り裂かれ、壁賭けの絵画や、名匠の花瓶も、ゴミのように砕かれていた。
壁に人間がめり込んでいる。
よく見ると、シャンデリアの下にも、人間が寝そべっていた。
両者とも熊のように大きな男で、ピクリとも動かなかった。
この二人は、老婆に雇われた用心棒に違いない。
二人とも、命を取り留めているようではあったが、血まみれであった。
アンドレーは、店を出ると、緊張した顔で走り出した。
人気のないほう人気のないほうに走り、やがて建物と建物の間の影に滑り込んだ。そこに、ウィザード3人娘がいた。
「アンドレーさま、エディタちゃんは見つかりましたか?」
エミーリアの声。
「一足遅かったみたいじゃ。
じゃが居場所はわかっておる。保安局だ」
アンドレーが答えると、オリーヴィアが難しそうな顔をして言った。
「少々面倒なことになってしまいましたね」
「どういうことだ?」
「保安局の建物には、安全上の理由から、あらゆるスキルの発動を封じる結界が張られております。
ですので、物理攻撃用の武器しか使えず、しかも、保安官のみが武器の所持を許されているのです」
「そうか……」
アンドレーは考え込んだ。
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