第21話 裁きとは、誰の、何のためにあるのか

 もう日が暮れかかっていたが、アンドレーは急いだほうがいいと判断し、すぐに村を出立した。


 再び森に入ると、忌まわしい魔獣乱獲の光景を目撃したが、彼は奴らの阻止を優先せずに、メイルストーへと急いだ。


 その判断は、非常に正しかった。


 なぜなら、メイルストーにいるエディタの身に、危険が迫っていたからだ。

 

 彼女を雇う宿屋の従業員が、そろそろ営業を始めようかと、店の扉を開けたときだった。


 戸口に、厳しい制服姿の保安官が二人、仁王立ちしていた。


 犯罪を疑う訝しい顔で。


「最近ここに入った若いのがいるな? 年齢を確認させろ」


 この世界でも、この手の仕事には年齢制限が設けられている。


 違反すると、雇った方も雇われた方も、とんでもない重罪に処される。


 エディタの年齢では、この仕事はやってはいけないことになっていた。


 つまり、彼女は違反者なのだ。


 どうやら、保安局にそのことが知れてしまったらしい。


 従業員の彼は、ビクビクしながら答えた。


「わかりました。いま、責任者を呼びます」 


 しばらくして、この店のオーナーが入口にやってきた。


 地下室でエディタを面談したあの老婆だ。 


「これはこれは保安官どの、日々のお勤めご苦労さまです。


 あなたがたのご活躍あればこそ、私どもはこのように安心して……」


「いらん文句を聞いてるほどこっちは暇じゃない。


 最近ここに、紫の髪、赤い目の若い女が入っただろ。


 いますぐ連れてこい」 


 老婆はひどく焦っていた。とうぜんだ。彼女はエディタの年齢を知っているのだから。

 彼女は、エディタを出すわけにはいかなかった。

 

 もし、ことが発覚したら、彼女も重罰を受ける。


 ところが、老婆は額に汗をかきながらも、意外に容易く了承してしまった。


 そばにいた若い男子従業員に、「エディタを連れておいで」と告げたのだ。


 彼女の顔には、頑固に刻まれたシワがうじゃうじゃしている。


 その人相は、腹底の執念深さを想像させた。


 あっさり縄につくタマではなさそうだ。


 エディタが、さっきの従業員に連れてこられた。


 紫の髪を美しく結い、真紅のルージュが実年齢を見事に欺いていた。


 きわどい大人の服を着ている。


 エディタは、保安官の制服を見て、ビクビク震えていた。


「タレコミがあってな。この店で年齢制限を無視して働いている外法者がいると。


 我々は貴様を疑っている。


 年齢を答えよ」


 エディタは、全身をブルブルと震わせて、答える気力もなかった。


「答えんかッ!」


 保安官が怒鳴ると、老婆が代わりに答えた。


「15歳です!


 この子はちゃんと15歳を超えています!


 だから、法律には触れないはずです!」


 保安官が怪訝そうな顔でエディタに問う。


「ほんとうかぁ?」


 老婆がうろたえながら説得する。


「なあエディタ、そうだろ? あんた15歳だよね?」


 エディタは、怖々と嘘を言った。


「はい、わたし、15歳です」


 保安官は得意げな顔をして、ポケットから魔道具を取り出した。


 グリップつきのオペラグラスみたいな形のものだ。


 彼は、それを使ってエディタを覗いた。


 グラスの中の丸い視界に、エディタの顔が大写しになると、隅っこの方に、彼女のフルネームと実年齢が表示された。


 この道具は、防犯のために開発された魔道具で、相手の氏名・年齢・前科の有無をその場で調べられる。


「13歳!?」


 保安官が、皮肉っぽく、大きな声でいった。 


 すると、老婆が、ひぇー!と叫んで飛び上がった。


 老婆がいまさら驚くのは不自然だ。


 彼女は、エディタが13歳と知って雇い入れたのだから。


 面談のときに、間違いなく実年齢を確認しているのだから。


 ではなぜ彼女は驚いたのだ?


 それにはちゃんとした理由がある。


 彼女は、自分が助かるための布石をちゃんと打っていたのだ。


 その老婆は、容易く捕まるような人間ではない。

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