第20話 魔獣と人間の、それぞれの捕食関係
村長は跪き、拳の上に涙をこぼしながら恨みごとを言った。
「ミドルワームに罪はない。
罪があるのは、森でアクスバードを乱獲しとる外法者どもじゃ」
「やっぱりそうなんですね」
ジアーナも腹立たしそうだ。
彼女は被害の因果を理解したらしく、アンドレーに説明した。
「アクスバードはミドルワームの天敵なんです。
この二つは魔獣間の食物連鎖の捕食と被食の関係にあるんです。
森でアクスバードが乱獲されて数が減ったせいで、ミドルワームが捕食されなくなり、魔獣の生態系が乱れてしまって、そのせいでミドルワームが大量発生したんです!」
オリーヴィアが長老にたずねた。
「メイルストーの保安局に通報されましたか?
この辺の治安はそこが管理しているはずですが」
「何度も何度も何度も言ったさ。
しかし、一向に乱獲はおさまらない!」
アンドレーは、森の中で見た光景を何度も反芻していた。
長老が、意味のわからない言葉を連呼しはじめた。
「エディタよすまない! エディタよすまない!」
村長が発作を起こしそうになったので、彼を落ち着かせるために、とりあえず彼の住居へ場所を戻した。
村長は布団に寝かされ、朦朧としていた。
今度は村長の奥さんが話相手だ。
さらに、あるひと組の夫婦が呼び出され、同席していた。
「こちらがエディタの両親です」
奥さんに紹介されると、二人はアンドレーに一礼した。
エミーリアが、青ざめた顔でたずねた。
「エディタという娘さんが、自らの意志で身売りしたという話は本当なんですか?」
父親が、不甲斐なさそうにハイと答えて頷いた。
母はしくしくと泣いていた。
二人とも、ずいぶんと体が弱っていた。
村長の奥さんが言った。
「もともと貧しい村だったんです。
でも困ってはいませんでした。
村人の誰ひとり贅沢を望まなかったので、魔香草を栽培して、それを売って暮らす。
それで十分だったんです。
ところが、例の魔獣被害が始まってから、花を売れなくなり、困るようになったんです。
わたしたちは、お国がすぐに動いてくださると思っていましたが、まさかこんなになるまで放置されるとは……。
そんなおり、ちょうど半月前のことです。
エディタの弟が病を患いまして、高額な薬が必要になったんです。
でも、この村には彼を救ってやる力などありません。
すると、エディタが身売りをすると言い出したんです。
身売りをしてお金を稼いでくると……。
村中大反対しました。
でも、結局、我々は彼女を止めきることができませんでした。
先週、あの子は自分の足でメイルストーの宿場街へ行ったのです。
昨夜手紙が届きました。
三年働けば、弟の薬を買い、さらにこの村のみんなを数年食わすだけの報酬がもらえるとのことでした」
父親が言った。
「俺たちは、13歳の娘にすがるしかない、無力な人間なんです……」
村人3人の物悲しい鳴き声が、応接室に聞こえた。
アンドレーが無感情な声で言った。
「残念ながら、娘さんが元気に帰ってくることはないじゃろう。
こういう場合、薬づけにされて廃人になるか、不法な売春行為が発覚して重刑に処されるかのどちらかじゃ。売春は大罪だからな」
村人たちの顔が凍りついた。
3人娘たちも同様であった。
「すぐに動いたほうがよかろう」
アンドレーはそう言って立ち上がって、さらにこんなことを言った。
「まっさきにやることは、エディタを取り戻すことじゃ」
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