第18話 暗い森の狩人たち
翌朝。
アンドレーたちは身支度を整えて、ハンディストー村に出発した。
ハンディストーは片田舎の小さな農村だ。
首都近郊は、街や村をつなぐ道の整備が進み、舗装されて歩きやすく、凶悪な魔獣が出現する心配もなかった。
快適な街道を一時間ほどいくと、T字の分岐点にぶつかった。
案内標識に従って、T字を右に折れた。
道は、未舗装の田舎道であった。
「魔臭が濃くなってきたな」
アンドレーが言った。
気のせいか、気温も少し下がったように感じた。
「メイルストー近郊の街道は、魔獣避け効果のある石で舗装されているんです。
だから、冒険者以外の一般人も安全に通れるんです」
コバルト色セミロングヘアーのジアーナが説明してくれた。
絹のようにサラサラした髪。
一行は、あいかわらず非人道的な戦闘隊形で歩いている。
賢者は、女の子を盾にしても、心を痛めている素振りは微塵もない。
しばらく歩いても、魔獣と遭遇することがほとんどなかった。
赤毛三つ編みのオリーヴィアが不思議そうに言った。
「このあたりは、頻繁にアクスバードとエンカウントするはずなんですが、変ですね」
彼女はメイルストー出身だから、この辺に詳しい。
一行は道をさらに進み、やがて、森の中に入った。
木々が滝のように連なって、頭上に枝葉が覆いかぶさって、晴天の午前ではあったが薄暗かった。
緑髪のエミーリアが、何かをみつけたらしく、急にたちどまった。
「アンドレーさま、あそこをご覧ください」
彼女が指差すのは、森の奥の奥。
木々の間に間に微かな人影が見えた。
二人いて、一人は狩人の出で立ちで、背中に弓を背負っている。
もうひとりは、ウィザード用のローブを着ているから魔法の使い手だろう。
狩人が、手に鈴のようなものを持って揺すっているのが見えた。
澄んだ音が遠目に微かに聞こえた。
「あれはハローエネミーですわ。魔獣が好む音を鳴らす鈴です」
エミーリアが言った。
と、狩人たちが、慌ただしく動き始めた。
ウィザードの口元が黄色に光った。
何かの魔法を使ったみたいだ。
すると、狩人は、弓を構え矢を引いた。
微かに声が聞こえた。
「ショック・ショット」
ダメージを与えずに相手を麻痺させる狩人の特殊スキルだ。
魔獣を生け捕りにしたり、街の警官が犯罪人を捕らえるときに頻繁に使われる。
矢が放たれると、薄暗い森の空中に、青い光の線が描かれた。
狩人の特殊スキルは、美しい光のアートのようであった。
「ギャアアア!」魔獣のうめき声。
矢が命中したようだ。
二つの人影は、射抜いた獲物に近寄り、掴み上げた。
青い羽根が見えた。
斧のように立派なトサカが見えた。アクスバードだ。
彼らは、用意していた縄で魔獣を縛り上げ、用意していた大きな袋に詰め込んだ。
アンドレーが、彼らの行動を興味深そうに観察していると、ジアーナが、別の方向を指さしながら言った。
「あちらでも!」
みんなが彼女の指差す場所を見やると、今しがた目撃したのと、ほとんど同じようなものが見られた。
ウィザードと狩人の二人連れが、魔獣を引き寄せるベルと、特殊スキルを連携させ、アクスバードを捕獲していた。
一行は、その森の中で、5度その光景を見た。
「この森では、あのような光景がよく見られるのか?」
アンドレーが、メイルストー出身の三つ編み赤毛娘オリーヴィアにたずねた。
「いいえ。私が首都に暮らしていたころには、見たことがありません」
「そうか」
薄暗い森には、旅人の不安を誘う、妙に重苦しい空気が充満していた。
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