第17話 踊る大都市メイルストー

 3人の娘たちは、すぐにアンドレーの元に戻ってきた。


「アンドレーさま、宿をとって参りました」


 彼は、彼女たちに案内されて、宿屋に移動した。


 格安でありながら、最低限の清潔感が保たれた宿であった。


 それほど高価ではない木材で作られた慎ましい建物だ。


 借りた部屋は、けっしてひろくはない4人部屋。


 アンドレーが部屋を見渡して言った。


「良い宿じゃな。おぬしらはいいセンスをしておる」


 アンドレーに褒められると、3人とも頬を赤らめた。


 ジアーナが言った。


「アンドレーさま。すぐそこの広場で、なんだかとっても楽しそうな催し物が開かれているらしいのですが、一緒にご覧になりませんか?」


 アンドレーは、彼女たちの誘いにのって、広場に行った。


 その頃にはもう日が落ちていて、空は暗かった。


 だが、街は昼間のように明るい。


 あちこちで贅沢に照明がたかれているのだ。


 広場にはたくさんの露店が出ていて、飲み食いをするための席もたくさん用意されていて、それはもうお祭りの光景だった。


 大都市の中心は、昼間よりも夜のほうが賑やかだ。


 その中でも、とくに盛り上がっている場所があった。


 でっかい手作りの看板が立っていて、「闘鶏場とうけいじょう」と血塗りの文字が書いてあった。


 闘鶏場は、血塗りの看板にふさわしい血みどろな見世物であった。


 闘牛場のスタジアムを、小型にしたようなグランドが用意されていて、その中で、鶏型の魔獣・アクスバードを戦わせているのだ。


 斧のようなギラギラしたトサカをもつ鳥の姿の魔獣が、羽を縛られた恰好で戦わされている。


 二匹の魔獣が疾走し、トサカで互いを切りつけ合う。


 その青い鳥は、両者の頭蓋から吹き出す血潮を浴びて、残酷に彩られていた。


 見物している大都市の京楽児どもは、金銭を賭けてどちらが勝つかを争い、顔を真っ赤に怒らせて、怒鳴り、叫び、喚き倒している。


 誰も彼もが、時の経つのを忘れて、血なまぐさい決闘に夢中になっていた。


 3人の娘たちは、意外にもそんな闘争を見物するのが好きらしく、目を爛々させながら観戦していた。


 ただ、アンドレーだけは無表情であった。


 彼らが闘鶏場にいるころ、その街の別の場所では、こんな光景が見られた。


 昼間のように明るい都心から離れた薄暗く陰鬱な場所に、宿屋街がある。


 ここは、いつかの日に、エディタという13歳の娘が、馬車に乗せられてやってきた場所であった。 


 宿屋街だけあって、一本道の両脇に宿屋がずっとずっと軒を連ねている。


 そして、宿屋の列の前に、並び地蔵のような雰囲気で女が立っている。


 どの女も、男の欲情を煽る衣服を着ている。


 ある男が、その道にやってきた。並ぶ女を選り好みしながら、ノロノロと道を進む。


 と、気に入った女を見つけたとみえて、男は鼻のしたを伸ばした。


 彼は、目当ての女に近寄り、二三言言葉を交わすと、そのまま目の前の宿屋に入っていった。


 無尽蔵にならぶ女の列の中に、エディタの姿があった。


 彼女は、伏し目がちで、輝きのない目をしていた。


 また別の男がやってきた。


 二人連れで、ひどく酒に酔っている。


 騒がしい奴らだった。


 そのうちのひとりが、エディタの前で立ち止まった。


「お嬢ちゃん、いくらだい?」


 エディタが二三言何かを言うと、その男はニヤリと笑って、連れの男に別れを告げた。


 エディタは肩出しのセクシーな服を着ていた。


 彼女は、そのむきだしの清らかな肩を、顔に覚えのない男の手に抱かれて宿屋に消えていった。


 彼女の後ろ姿は、今にも消えそうなロウソクの火のようであった。

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