第16話 「いやだ……、そこはダメッ……」(ウム。悪くない)

 アンドレーは草むらの中で、ゴソゴソゴソゴソ、ゴソゴソゴソゴソと、忙しく物音を立てていた。


 泥棒と警官の捕物劇を思わせるような雰囲気であった。


 しばらくすると、物音がピタリと止んだ。


 カサッ、カサッ、カサッ。アンドレーの足音が近づいてくる。


 と、彼が草村から飛び出してきた。


「きゃあー!」


 女たちが一斉に叫ぶ。


 アンドレーの両手には、夥しい数のマゾヒスネークが!


 蛇の群れが、神話に出てくるメデューサの髪みたいに蠢いていた。


 彼は、何を思ったか、蛇の大群を、エミーリアにぶっかけた。


 可哀想な少女は、蛇の雨を浴びた。


「ギャー!」


 アンドレーの奇行はそれで終わらない。


 彼は、残りの二人の女の首根っこを掴んだ。


「な、なにをするのですッ!」


「アッ、アンドレー様!」


 彼は、少女たちを、蛇の海に投げ込んだ。


 ヌメヌメと地を踊る魔獣は、一匹の例外なく自身の特殊スキルを発動した。


 まきつき!


 ある蛇はエミーリアの両手首に、ある蛇はオリーヴィアの太ももに、ある蛇はジアーナの胸元に絡みつき、締め上げ、肌にくい込んだ。


 百の蛇が百の縄となり、ノワールなシーフ姿の少女たちをいましめた。


 彼女たちは、ほとんど身動きができなかった。


「いやだ……、そこはダメッ……」 


 エミーリアが、顔を真っ赤にしてつぶやいた。


 マゾヒスネークは、彼女の股の間に潜り込み、舌をチロチロと動かしていた。


 他の少女も、顔を真っ赤にして喘いでいた。


 その光景を眺めるアンドレー。


(ウム。悪くない) 


 こいつは、もともとは、炎のような信念を燃やし、激しい修行を耐え抜いて煩悩を断ち切った、世にも希な僧侶であった。


 女神のケアレスミスは、紛れもない大罪であった。


 天界で、溜まった書類を処理している女神は、作業中ずっとつぶやいていた。


「アンドレー! 頼むから全滅してくれ」 


 彼は、適度に遊びを楽しみながら、メイルストーに到着した。


「いい汗をかいたのぅ」アンドレー。


「はい、とっても刺激的な道中でした」 


 エミーリアが喜々として言った。


 オリーヴィアがたずねた。


「アンドレーさま、これはどういたしましょうか」


 彼女の手のひらに、山盛りの不思議な実があった。


 これは、経験値の実だ。


 魔獣を倒すと手に入る戦利品。


 食べるとレベルが上がる。


「3人で分けるのじゃ」


 アンドレーが答えるとオリーヴィアがためらった。


「でも……こういうのってマナー的にはパーティー全員で均等に分けるものでは?」


「我は『不食』のスキルを有しておる。


 我は食事に用事がない。


 3人で分けて食べよ」


 アンドレーは、道中、いかがわしい奇行をやってのけたが、魔獣を倒したのは彼であった。


 少女たちが無傷でこの場にいるのは、そのためである。


「ではありがたく頂戴します」


 3人娘は、深々と頭を下げて例を言った。


 実はブドウにみたいな見た目で、やはりブドウみたいな味がした。


 噛むとプチっと弾けて、甘くてフルーティーな酸味がパッと広がった。


 鉄分の味がして体にしみわたる感じがした。美味しかった。


 その後、一行は、道具屋に行った。


 アンドレーが背負うザックの中には、マゾヒスネークの革がたっぷり入っている。


 乾燥させて煎じて飲めば、麻痺を改善する薬になる。道具屋に持ち込めば、喜んで買ってもらえるのだ。


「こいつは上物だな。全部で1000Gになるが、それで構わないかい?」


「結構じゃ」


 アンドレーは、1000G手に入れた。


 彼は、そのお金を娘たちに渡した。


「好きに使って構わん」


 彼女たちは、跪きながらお金を受け取った。


 3人娘は満面の笑みで、はしゃぎながら街に繰り出した。


 メイルストーは、この国の首都であり、最大都市。


 人口も物も溢れかえっていてキラキラしている。


 アンドレーは広場のベンチに座り、空を見上げた。


 夕陽が綺麗だった。明日も天気が良さそうだ。

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