第13話 女神は思った。「あっそうか! 死んでくれればいいんだ」

 ギルドには3人の女だけが残されて、残りの97人は村に帰っていった。


「あの……アンドレーさん。一度だけでいいので、ビギナー用のチュートリアル講座を受けてください」


 女神は、アンドレーが組んだパーティーを見て、おもわずそのように進言した。


 そばで見守っていた3人の受付嬢たちも、コクリコクリと頷いて賛同していた。


 彼のパーティーは、彼と、回復スキル専門の補助系ウィザードが3人であった。


 賢者・補助系ウィザード・補助系ウィザード・補助系ウィザード。


(誰が攻撃するねん。全員杖しか持たれへんやろ!)


 むろん、アンドレーはチートだから、なんの心配もないが。


「チュートリアルは結構じゃ。では、出発するぞ」


「まだまだまだ! 装備を整えなきゃ! 魔獣と戦うんですから」


(おいおい、こいつはどこまで無知なんだ。すぐに死ぬぞ……)


 女神は、心の中でそうつぶやいた瞬間、自らの腹ぞこに、女神としては絶対にあってはならぬ黒い感情が芽吹いたのを感じた。


 あろうことか、彼女は、こんなおそろしい言葉をひとりごちてしまった。


「あっそっか。死んでくれればいいんだ」


 その声は、ごくごく微かな声だったから、その場にいた誰の耳に届くこともなかった。


 そして、一行は武器防具屋に場所を移した。


 入って左側に武器の類が並んでいて、右側に防具が並んでいた。


 女神が、転生したばかりの男子たちをこういう店に案内することはよくあることだった。ビギナーのチュートリアルも彼女の業務の一環なのだ。


 彼女は、若い男子を武器防具屋に案内するのが好きだった。


 男子の、剣に見とれたときの、あの純粋な目が可愛くてたまらない。


 そして、剣を構えた時の、腕に隆起する筋肉の筋がスパイシーでデリシャスだった。


 女神は少しだけ期待した。


 アンドレーは面倒な男だが、イケメンスキルを付与されたチート級の美男子。


 ハーレムは伊達ではない。


 彼が、彼女が好む男の甘い魅力を見せてくれるんじゃないかと、ほのかに期待したのだ。


 しかし、彼女は顔は、すぐに残念な色に曇った。


 アンドレーは、剣には一切興味を示さず、女子用の防具コーナーに、なんのためらいも恥じらいもなく入っていった。


 そして、戦闘用の強化下着を漁り始めた。


 アイアンシェルという虹色の貝殻型の魔獣を素材にしたものや、ダークタイガーの革を使ったトラ柄のものもあった。


 魔法耐性を高めるための魔樹繊維製の紐タイプもあった。


「おい、ここに立て」 


 と、小柄なウィザード少女をそばに立たせて、下着をあてがって、似合うかどうかを吟味している。


 目利きの職人の眼差し。


(ってナニしとんねん!)


 彼はそんな感じで、3人分の強化下着をセレクトした。


 次に彼は、女子たちに着せるローブを選び始めた。


 補助系ウィザードは後衛に構えるのが定石で、激しく動き回る必要があまりないので、防御力重視の動きにくい頑丈なローブがよく売れる。


 店の品揃えも、そういうものがほとんどだ。


 アンドレーは、不満そうな顔でローブのライナップを睨んでいた。


 すると、ひとりの少女が、アンドレーに声をかけた。


「ねぇねぇ、こういうのはどう?」 


 少女は、シーフ用の防具コーナーに立っていた。


 露出度の高い防具を手に取って、自分の躰にあてがって、アンドレーに見せつけている。


 乙女の恥らいで、顔が赤くなっていた。


 シーフは機動力がすべてだ。あらゆる無駄をカットした防具は風のように軽く、そして、アバンギャルドな露出度。


 アンドレーは指をパチンと鳴らし、


「それだ!」 


 と、その少女を褒めた。


 女神が慌てて止めに入る。


「いやいやいやいや! あなたはウィザード。これはシーフ。


 クラスの違う防具を装備するのは、この世界では反則者扱いになるからやめておきましょうねー」


「構わん」


 アンドレーがぶっきらぼうに言った。


(こら、お前。少女にこんな服着せてなんのつもりじゃ!)


「反則を犯せば名誉を失って生きていけなくなるとでも言いたいのか?」 


「その通りでございます」


「名誉を失って死ぬのは貴族気分の愚種だけじゃ。


 おい、店員! この下着三つと、この防具三つをもらおう」


 アンドレーは、女神様の忠言を無視して、自分ごのみの品物を購入してしまった。


(お前、涅槃はどこいったんや……)

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