第12話 女神の後悔

 隣町の冒険者ギルドには、その世界の者共がかつて見たことのない光景が広がっていた。


 そこをそんな光景にした犯人はアンドレーと彼に従う百の女だ。


 アンドレーは、女ども全員を冒険者登録させると言い出した。


 女神が、一度にそんなことされるとギルドがパンクするからやめてくれと頼んだが、彼は聞く耳を持たなかった。


 かくして彼は、百の女を引き連れて、最寄りである隣町のギルドにやってきたのだ。


 3人の受付嬢が半泣きになりながら登録作業をやり続けていた。


 三十分たっても、まだ半分以上の女が残っていた。


 カウンター前はすし詰めで、酔いそうなほどの女の芳香が充満していた。


 一番最初に登録を済ませたアンドレーは、涼しい顔をして、ギルドと併設されているカフェでくつろいでいた。


 隣に女神が座っている。


 そのカフェは、冒険者たちの待ち合わせスペースの役割を果たしていて、勢ぞろいしたパーティーが、クエストへ出立つ準備をしたり、あるいは、クエストを終えて帰還した者たちが祝杯をあげたり休憩したりしている。


 そんな感じで、年がら年中賑わっているのだ。


 が、今日は、いつもにはない異様な感じになっていた。


 カフェにいる全員が、アンドレーと女神をまじまじと見ながら、ヒソヒソと話をしている。


「あれが例のアンドレーって賢者だろ?」


「町長の息子をボコボコにした奴らしいぞ」


「聞いた話では、クラスを浮気していて、人に向けてレイヤードスキルを使ったらしいわ」


「旅立ちの村の女たちを独り占めしてるって噂だぞ」


「うわぁー、そんなの村の男たちはたまったもんじゃねぇぞ」


「ねぇ、となりに座ってるのって天界の女神様じゃない?」


「なんでアンドレーと一緒にいるの?」


「もしかして二人は○○な関係なんじゃ!」


「ありえるな。○○関係だから、依怙贔屓えこひいきしてチートスキルを付与したんじゃねぇか?」


「それって不正行為なんじゃないの? 女神がそんなことしていいわけ?」


「世も終わりだな。天界ですらも不正が行われるようになったんだから」


「なんとも嘆かわしい」


 女神は、あからさまに耳をふさぐわけにもいかず、聞こえないフリをすることに心身をくだいていた。


(違う。違うのよみんな。


 これはただのケアレスミスなの……ヒューマンエラーなの……グスン)


 一時間ほどして、やっとすべての女の登録が終わった。


 アンドレーが席を立ち、得意げに言った。


「よし、今からハンディストー村に向かおう」


 注文していたコーヒーを啜っていた女神は吹き出しそうになった。


「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと待ったァー!」


(お前、この人数で村に押しかける気か!?)


「アンドレーさん、パーティーメンバーを登録しましょう」 


 クエストは、依頼者への配慮から、ある程度の人数制限が設けられている。


 アンドレーみたいな世間知らずな冒険者を暴走させないための対策だ。


 彼が受けたクエストの上限人数は4人であった。


「アンドレーさん、4人選びましょうか」 


 女神は、彼女が担う業務が山のように残っているから、すぐにでも天界に戻りたかった。


 しかし、この男を放っておくと、きっととんでもないことになって、あとあと面倒になるに違いないと予感したから、離れるわけにはいかなかった。


(今日も残業確定。すべては自業自得。プリンたべて頑張ろ……)

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