第11話 アンドレーの異世界初クエスト

 女神は、鬼ごっこから無事に逃げて、やっとの思いでアンドレー家にたどり着いた。


 本来なら一分でたどり着ける場所のはずが、二時間かかった。


(もうくたくた……)


 げっそりした女神が玄関をノックした。


 女神は客間に通された。


 アンドレーと二人きりで話をした。


「アンドレーさんは、私の不手際のせいで望んだ通りのスキルを付与されませんでした。


 だからさぞお困りでしょ?


 やっぱりスキル変更を望んでおられるんじゃないかなぁと思って、心配して様子を見にきたんです」


「我は涅槃を得た身なり。


 来るもの拒まず去るもの追わず。


 なにも困っておらん」


(涅槃? 女の匂いがプンプンするんですけど……)


「そうですかー。それはなによりですー」


(頼む。スキル変更させてくれ! 村男のためにも!)


「今日はなんの用じゃ?」


「あっ、えっと、その……」


(はぁ、やっぱ無理そうだ。ならばせめてこの村から追い出さなきゃ)


「ちょっとしたお願いがありまして」 


「なんじゃ?」


「この世界に転生したかたには、是非魔王を倒していただきたいんです」


 フンッ。


 アンドレーが鼻で笑った。


「悪などこの世界には存在せん。


 人は、己の執着を邪魔する対象を悪と呼び、人は己の執着を守るための行為を正義と呼んでいるに過ぎない。


 ゆえに、執着が悪を生むのだ。


 魔王に濡れ衣を着せる者の心にこそ魔王が住んでおるのじゃ。


 女神よ、おぬしはおぬしの中にいる魔王と戦うべきじゃ。


 涅槃はその先にある」


(あーめんどくせーめんどくせー。


 ってかネハンネハンってうるせぇー)


「勉強になりますー。ナンマンダブツー」 


「で? 今日はなんの用じゃ?」 


(こいつ、マジで、なんでこの世界を選んだの?


 魔王退治に興味ないならもっと別の世界を選べよ!) 


 女神は、なんとしてでもアンドレーに冒険を進めさせなければならなかった。


(とりあえず、なんでもいいからクエストを……)


「魔王退治はまたの機会にお願いすることにします。


 その代わりに、クエストをお願いしたんです」


「クエスト?」


(こいつマジで何にもしらねぇんだな! だんだんムカついてきた……)


「はい。冒険の本筋には関係ないんですが、冒険に深みをもたせるために用意された要素でして……」


「ウム。人生には適度な寄り道が必要じゃ。


 たまには本筋の外にでて、進む方角の正しさを客観的に見極める必要がある。


 でなければ、涅槃に到達できない。


 涅槃にクエストは必要じゃ」


(涅槃が夢に出てきそう……)


「ですよねー。涅槃にクエストは必要です。


 ではさっそくこちらをどうぞー」


 女神はクエストを記した紙をアンドレーに手渡した。


(たかがクエスト紹介にここまで骨折ったのはあんたがはじめてや! カネ返せ!)




 クエスト名:ハンディストー村の花畑を食い荒らす魔獣を駆除せよ!

 

 ハンディストー村では、マジックポーションの原料として重宝される魔香草まこうそうの栽培が行われており、それが村の主要産業になっている。


 しかし、最近、魔獣が花畑をあらすようになり、村の産業が壊滅的な被害を受けている。


 いま、村は存続の危機にさらされている。


 勇敢な冒険者よ。花畑をあらす魔獣を駆除し、ハンディストー村の産業と人々を守るのだ!




「なるほど。わかった。さっそく参ろう」


(ヨッシャ。とりあえずクエストで釣ってやろう作戦は成功!)


「アンドレーさまは冒険者登録はまでお済みではないですよね?」


「ああ」


「この世界では、クエストにトライするには、冒険者登録をする必要がありまして」


「そうか」


「では、今からさっそく登録するために冒険者ギルドへ参りましょう。


 案内します」


 アンドレーが立ち上がると、家中に響き渡るような大声をだした。


「出かけるぞ」


 五つの部屋から、百の女が出てきて、ぞろぞろと集まってきた。


(え?なに? いやいや、ギルドにいくのはあなたひとりでいいんですけど……) 


 女たちがリビングに押し寄せた。


(なんで入ってくんの?)


 この人数にしては部屋は狭すぎた。


 おしくらまんじゅうだ。


(ちょっと、苦しい、苦しい!)


 全員が部屋に入ると、すし詰めの満員電車のようになった。


 アンドレーがはりきって女神に言った。


「冒険者ギルドへ行くぞ!」


(全員部屋に入ってくる意味ねぇーだろ!!)

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