第9話 「不名誉」というチートスキル
スザンネが、服を脱ごうとすると、アンドレーが「待て」と言って制した。
「これは我の仕事じゃ」
アンドレーが、スザンネの着ていた花柄ワンピースの背中のチャックを下ろした。
スザンネが、袖から両腕を抜く。
ワンピースが、ふわりと足元に落ちる。
アンドレーがスザンネを後ろから抱いた。
アンドレーの胸板は燃えていた。
「アンドレー様、今夜はおたずねしたいことがたくさんあります」
「なんじゃ?」
アンドレーが、スザンネの首筋にくちづけた。
「どうやって牢屋で抜け出したのですか?」
「ハーレムの中のひとりが、国一の権力者と仲が良くてな。
彼女の魔力で逮捕を取り消させた」
「まぁ……女をけしかけて法を捻じ曲げたのですね。悪い人」
「あの程度の人間を相手にしているときには、こんな手で充分じゃ」
スザンネは、どうして私が町長の息子の家にいるとわかったのか?と質問すると、アンドレーが丁寧に答えてくれたが、その内容は今はそれほど大事ではないのでここでは省く。
スザンネがショーツを脱いだ。
アンドレーに導かれてベッドに乗っかり、仰向けになった。
真っ白なシーツの上の咲いた凛花は神々しかった。
無二の光をたたえていた。
床に落ちたワンピース、ブラ、ショーツは、二人の夜の足跡。
「この世界では、複数のクラスを受け持つ者は、反則者として軽蔑され、あらゆる名誉を剥奪されます。
アンドレーさまは、怖くはないのですか?」
「我は不名誉がデフォルトスキルじゃ。名誉が要らぬチートじゃ」
アンドレーが、スザンネに馬乗りになった。
「人を相手にレイヤードスキルを使ったのも、その理由からですか?」
「そうじゃ。おぬしは我の性の花。
奴はその花を汚した。
我には我の性欲を守るスキルがあればいい。名誉は役に立たぬ」
その夜の会話は、そこまでであった。
そこからは、言葉ではなく、唇をねぶりあう音、肌とシーツが擦れる音、ベッドの軋む音、そして、悩ましい男女の喘ぎ声だけが、寝室に、ささやかに響いた。
翌朝、アンドレーは、隣町に、買い物の用事で出かけた。
スザンネの他、3名の女を引き連れて町へいった。
町の中央に、名物の噴水があって、噴水を囲むようにして商店が連なっている。
どの店も繁盛していて、噴水周りは賑やかだ。
彼ら一行が、そこを通りかかったときである。
向かい側から町長が乗車する馬車がやってきた。
町長は、公務中らしく、複数の秘書官などを引き連れてどこかへ向かう途中のようだ。
町長は、アンドレー一行に気づくと、わざわざ馬車の向きを変えさせて、彼らへ近づいた。
馬車は、アンドレーのすぐの横に止まった。馬車の窓から顔を出し、アンドレーに話しかけた。
「昨夜、息子がずいぶんとお世話になったみたいだね」
町長は、忌々しそうな目をしている。
アンドレーが、両手に抱えきれないほどの花を従えている様を見て、相当腹を立てているようだ。
「おぬしは誰じゃ?」
アンドレーがぶっきら棒に言った。
彼が町長を知らないはずがない。
侮辱のために言ったのだ。
町長の眉間におそろしいシワがよった。
こめかみに浮き出た血管は破裂しそうだった。
だが、ここはあくまで公共の場だ。
聴衆の目がある。
作り笑いだけは忘れないように頑張った。
そのぎこちない笑顔を、アンドレーがからかった。
「貴族の生活はさぞ窮屈だろうな。
そんな小さな鳥かごに乗せられてあちこち引きずりまわされて望まぬ笑顔を強制される。
その窮屈な生活をしているから頭がおかしくなって、変な草を吸引したり、薬で女を眠らせて強姦したりするんだろう。
名誉は人に輝きを与えるが自由を奪う。おぬしの顔にわたしは不自由だと書いておるぞ」
「それは違うよアンドレーくん。
名誉は権力を与える。
権力は自由を与える。
つまり名誉は人に自由を与えるんだ。
君は私を見くびってはいないかね?
君はこの世界における様々な禁忌を犯したね。
私の持つ権力で君を社会から抹殺することだってできるんだよ」
町長が言い放つと、アンドレーは、とつぜん服を脱ぎ始めた。
町長はギョッとする顔をした。
(こいつは何をする気なんだ?)
アンドレーの奇行に気づいた聴衆たちも、ザワザワし始めた。
アンドレーはとうとう全裸になってしまった。
街のど真ん中に出現した破廉恥なオブジェを、聴衆たちが笑った。
アンドレーは嘲笑の的だ。
しかし彼は微動だにしない。
アンドレーのデフォルトスキル「不名誉」発動。
アンドレーが町長に言った。
「貴様が自由であることを証明したければ、その馬車を降り、その服を脱げ。
そして、我と一緒に嘲笑をうけよ」
町長は、しばらくは何も言わなかった。
岩のように黙り込んで、ただただ目の前の全裸男とにらめっこした。
町長は、アンドレーが釈放された裏事情を知っていた。
アンドレーが所有する女どもが、自分以上の権力者と繋がりをもっていることにも気づいていた。
町長は裸で町をあるく勇気もなければ、権力でアンドレーをねじ伏せることもできない。
最低でも最高でもない、何者でもないその他大勢の一人なのだ。
きっと町長にはアンドレーに勝るところがひとつもないのだ。
スザンネが、権力者を前にして泣き寝入りするしかなかったのと同じように、彼もまた、自分の息子が半殺しの目にあわされても、泣き寝入りするしかなかった。
自業自得の結果となった。
彼は、何も言わずに馬車を走らせて去っていった。
アンドレーは服を着なおして、何事もなかったかのように自分の用事のために歩き出した。
彼は、歩きながら、スザンネにこんな話をした。
「名誉で生きる男は、どれだけ輝いていようとも女を愛さない。
彼が愛しているのは女そのものではなく、女を所有することによって得られる名誉なのだ。
スザンネ、その男が何を愛しているのかを見よ。
今回のことを教訓にして、いい女になれ」
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