第8話 容赦なきアンモラル
息子が、アンドレーに飛びかかった。
その恰好は、あきらかに不自然であった。
なんというか、道化的で間抜けな感じ。
まるで、どうぞわたしをボコボコにやっつけてくださいと言わんばかりの、隙だらけの恰好であった。
彼は、アンドレーが反撃の構えをとるのを見て、ニヤリと笑った。
(そうだ、いいぞ、俺を殴れ。暴行しろ。
今度こそお前を牢にぶち込んでやる。
こっちには父さんがいるんだ。
父さんの力を借りれば、お前を社会的に死刑することだってできる。
お前からありとあらゆる名誉を奪って、自殺するまで追いつめてやる!)
「タイムストップ!」
息子の、肉を切らせて骨を断つという企みを、知ってか知らずか、アンドレーが時空停止魔法を使った。
息子が、飛びかかった恰好のまま氷漬けになった。
アンドレーは剣を鞘に戻す。両手に拳を握り、異様な構えを見せた。
格闘スキル・
青く光る拳が、動力機関エンジンのピストンとなり、息子の大腸を、小腸を、胃袋、膵臓、脾臓肝臓と、臓腑という臓腑を滅多打ちにした。
最後に、渾身の右ストレートを、いつかの日にもお見舞いした包帯だらけの顔面に打ち込んだ。
全弾命中のクリティカルヒットであった。
時空魔法が切れると、攻撃を喰らった標的は、口から何かを吐き出しながら窓ガラスを突き破って道路に投げ出された。
投げ捨てられたゴミ袋のようにドサッと。
アンドレーは、またしても禁忌のレイヤードスキルを発動した。
しかも複数のクラススキルを組み合わせて。
非人道この上なし。
相手は、権力者の息子だ。
こんなことをして、アンドレーの身は大丈夫なのか?
二人が村に戻れたのは夜更けだった。
アンドレーは、すぐにシャワーを浴びて汗を流した。
チート級のイケメンに、たくましい胸板と鉄板のシックスパック。
豊かな筋肉の谷間を流れる雫は宝石のようであった。
床の飛沫が、虹を咲かせているかと疑われた。
彼の前世は、煩悩を断ち切った修行僧だ。
五つの断欲のスキルを選択するつもりが、女神のミスによって、こんなことになっている。
彼がシャワーを浴びている最中、スザンネには、こんな一幕があった。
彼女が暮らす部屋には、20人の女が雑魚寝している。
足の踏み場はない。
アンドレー宅にはそんな部屋が五つあった。
スザンネは、帰りがおそかったので、もうみんな寝ているかなと思い、こっそりと部屋の扉を開いた。
すると、意外にもみんな起きていた。起きていて、目をギラギラ輝かせていた。
誰かがスザンネの手を引いて、部屋の中に連れ込んだ。
スザンネは、女たちに囲まれた。
「ねぇ。バリエが風邪ひいちゃって、今日は無理なんだって」
「ってことは、今夜はあなたが当番よね?」
部屋の女たちが色めき立って、次々にたずねた。
スザンネは、最初はキョトンとしていたが、彼女たちの質問の意味がわかりはじめると、心臓がドキドキ、ドキドキと早鐘を打つのを感じた。
あっという間に顔が真っ赤っかになった。
アンドレー宅では、あることが当番制になっていた。なんの当番かと言うと……それはあとで明かすとして……。
本当は、バリエが今夜の当番であったが、彼女が風邪でダウンしたことによって、スザンネに当番が繰り上ったのだ。
「あぁ、わたしまだこころの準備が出来ていません」
スザンネは、手で顔を覆って、いてもたってもいられない感じになっている。
その時、扉がノックされた。
「スザンネ、頼むよ」
アンドレーの声だった。
「ほら、早く行きなさい」
「大丈夫。アンドレー様は、絶対に痛くしないから」
年上の女たちに励まされ、彼女は、勇気を振り絞って、扉を開けた。
廊下に出ると、スザンネは意外にも平気だった。
自然に、彼に寄りかかることができた。
二人の後ろ姿は恋人同士のようであった。
二人はそのまま、アンドレーの寝室に入っていった。
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