第7話 モラルなきバトル
友達Aの唇から解き放たれた吐息が、黄色く光り、魔法陣の模様を描いた。
その模様が、大口径ライフルの弾丸の形に化け、炎を纏い始めた。
これは、スーパースローカメラ映像並みの速度で鑑賞して初めて目視できる光景であって、実際には目にも止まらぬ光速の出来事。
ア・フレア・バレットが発射された。
弾丸は、アンドレーの膝を狙っている。
しかし、発射のほんの一殺那手前、アンドレーの声が先に聞こえていた。
「スローダウン!」
部屋の中のありとあらゆる物体が、アンドレーただひとりを例外にしてスローモーションになった。
アンドレーが、手にしていた剣を振りかぶった。
彼は彼の視界の中で、ハッキリとした弾道予測線を見ていた。
時空魔法・スローダウンが発動していても、弾の体感速度はプロ野球の怪物投手級だった。
アンドレーは、弾ではなく、予測線の予測点に焦点を結んだ。
彼は息を止め、集中した。
剣撃スキル・
剣が、魔法の杖となり、必中で敵弾を打ち返す妙技。
アンドレーの剣が閃き、青い残像が空中に弧を描いた。
カキンッ! 向きを反転させた炎の弾丸は、Aの肩を掠めた。摩擦で彼の肩が炎上した。
Aは叫ぶ。
「助けてくれッ!」
炎はあっという間に彼の全身を覆った。
「ウォーター・スライダー」
アンドレーの口元が黄色く光る。
次の瞬間、人間大の、水でできたパネルが出現してAを襲った。
パネルはAに激突して砕かれたが、今度はAがものすごい勢いで前に飛ばされて、壁と正面衝突した。
びしょ濡れの彼はもう燃えていなかった。
気が付けば、友達Bも、水浸しの状態で壁にもたれかかって気絶していた。
ウォーター・スライダーは二発発射されていて、Aと同時にBもやられていたのだ。
残ったのは息子だけだ。
彼は、一時は後じさりしたが、プライドが彼の退却を許さなかった。
「お前……正気かよ。人間相手にレイヤードスキルを発動させるなんて……」
レイヤードスキルとは、ひとつのスキルを展開させている最中に、別のスキルを発動させること。
さっきの「スローダウン」中の「
この世界には、人道上の問題からレイヤードスキルの対人使用が禁止されている。
アンドレーがやったことは、人道を外れた反則行為なのだ。
彼の御法度はまだ他にもある。
この世界の道徳教育では、シングルクラスが原則になっていた。一人につき1クラスまでという原則だ。
複数のクラスを受け持てば、それだけ幅広いスキルを使えるが、世界のバランスが崩れることが懸念される。
だから、暗黙のルールで、ひとりがふたつ以上のクラスを受け持つことはしないことになっている。
だが、アンドレーがいま使ったスキルは、あきらかにシングルクラスではない。一目瞭然であった。
息子は、アンドレーのありえないモラル破壊行為を目の当たりにして、憤りを通り越した恐怖を感じていた。
アンドレーが剣を構えて言った。
「おぬしはどうする?」
息子は、戦闘での勝ち目はないなと思った。
しかし、彼には後ろ盾がある。それを加味すれば、勝てない相手ではない。
(まさか殺しはしないだろ。わざと負けて、権力の力で倍返ししてやればいい。
なにせやつは、社会的な反則者なんだから)
彼は、両手にナイフをとり、戦いの構えをとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます