第6話 この世界のバトルとモラル

 部屋には6人いた。アンドレーと、スザンネと、息子と、友達3人。


 スザンネはすばやくアンドレーの背後に隠れた。


 アンドレーは剣を引いて、息子を突き飛ばした。


 部屋は一触即発だ。


「なんでだ! なんでお前がここにいるんだ!」


「我は貴様と同じ武器を持っておる。その武器をつかったまでじゃ」


 息子は、わけがわからないといった顔をしている。


「権力を笠にきて好き放題やる。貴様の得意技が、我も得意じゃ」


「わけわかんねーんだよ」 


「わからなくて結構。貴様に理解されたいとは思わぬ」


 息子は、とにかく、戦意をむき出しにしていた。


 どうにも戦いを避けられる場面ではなさそうだ。そんな空気が、スザンネを身震いさせた。


 息子が叫ぶ。「俺はシーフ。ナイフのスキル!」


 友達Aが続く「俺はウィザード! 炎属性専門」


 友達Bも同じく。「俺もウィザードで全属性を扱う」


 最後にCが宣言した。「俺は格闘家。武器はなし! 正々堂々拳で勝負だ」


 そのあと、誰も言葉を発さなくなり、部屋が沈黙した。敵方の者同士が目を合わせながら、不思議そうな顔をしている。


 息子がアンドレーに言った。


「おい、お前、この世界でのルールをしらないのか?」


「なんの話じゃ」


「この世界では、人と人が能力を使ってバトルするときには、クラスとスキルを宣言するのがモラルなんだよ!」


 アンドレーは、刹那、格闘家を宣言したCの拳を一瞥した。


 彼は何かを考えるような間をあけたあとに答えた。


「我は賢者。だから攻撃系のスキルはない。以上」


 息子が、仲間にだけ聞こえるように言った。


「とくかく戦闘不能にしろ。あとは父さんがなんとかしてくれるから」 


 格闘家のCが小声で返した。


「俺にまかせろ」


 と、Cが拳を構えてアンドレーに飛びかかった。


 青く光る拳は、格闘家のスキル発動を知らせるサインだ。


 Cが動くと同時にアンドレーも叫んだ。「ポイント・フロスト!」


 唇と吐息が黄色く光った。魔法スキル発動だ。


「ウアッ!」


 Cが叫び、攻撃をやめた。


 と、アンドレーの右ストレートがCの顔面に直撃した。


 Cのつま先が地面を離れた。


 すっとばされた彼はそのまま部屋の壁に激突した。


 アンドレーの拳と、Cの顔面から、青色の湯気のようなものがメラメラと立ち上っていた。


 物理攻撃系スキルが決まったときに見られる光学現象だ。


 さらに、Cの拳は、青黒く変色していた。


 アンドレーが使った魔法によって生じた凍傷だ。


 ポイント・フロストは、狙った場所をピンポイントで瞬間凍結させる氷属性魔法スキルだ。


 範囲と命中率に難があるが、威力は侮れない。


「卑怯者ッ! お前にはモラルはないのか!」 


 息子が叫んだ。


 アンドレーはフン、と鼻で笑った。


 息子が顔を真っ赤にして怒っている。


「バトル前の宣言で、攻撃スキルはないと言っただろ! 大嘘じゃないか」


 アンドレーは、無言のまま、気絶しているCに近づき、彼の手をとり、凍った拳を開いた。


 Cは、その拳に、威力を倍増させるための暗器を装備していた。


 彼はバルト前の宣言で、武器はなし! 正々堂々拳で勝負だ、と言ったはずだ。


「嘘はお互い様じゃ」


 アンドレーが息子を睨み返した。彼はさらにこうも言った。


「どうせ嘘をつくなら、もっと大きな嘘をつけばよい」


 アンドレーは、忌々しい暗器を放り投げた。


 すると、バトルの第二局が始まった。


 炎のウィザードが、アンドレーに向かって叫んだ。

 

 ア・フレア・バレット!

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