第4話 アンドレー、怒り爆発

 アンドレーはその後も、町長の息子、不正な金銭、のワードを大声で連呼し続けた。


 騒ぎがだんだんと大きくなってきて、ついに町長が受付にやってきてしまった。  


「役場をみなさんに安心して利用していただきたい。


 大声で迷惑をかけるのはおよしいただけますか」


 町長は、立派な服を着ていた。


 立派なヒゲも蓄えている。


 威厳ありげに振舞うのが得意そうな中年の男だ。


「まずはお話を詳しく聞かせていただきたい。


 できれば、応接室でお伺いしたのですが、こちらのわがままを聞いては下さらぬか」


 アンドレーは打って変わったように素直に応じた。


 場所は応接室にうつる。


 アンドレーが内容を話すと、町長はすぐに息子を呼び出した。


 息子はわりとすぐに役場まで来た。


 息子は、まだ17歳であった。


 容姿は美しかったがアンドレー未満だ。肌の色艶がよく、健康そうな体で、京楽好きのオーラを放っている。


 スザンネは、彼の方をみる勇気がないようで、黙りこくってうつむいていた。


「なんだよ父さん。友達と遊んでる最中だったんだけど」


 息子が、怖いもの知らずな感じで言った。


「お前は黙っていろッ!」


 町長が不機嫌そうに怒鳴った。


 が、すぐに表情を崩してアンドレーにたずねた。


「私の息子が、そちらの娘さんに不正な金銭を渡したとおっしゃられているようですが、ちょっと意味がわかりませんね。詳しくお聞かせ願えますか?」


「昨夜、貴様のできそこないでふしだらなクズ息子が、この娘に睡眠薬を飲ませて強姦した。


 その際、このカネを受け取った」


 アンドレーは、たくさんの銀貨が入った袋をテーブルの上にドンと置いた。


「もしも、このようなふしだらな金銭で物を買って食べた場合、腸に蛆虫がわき、大変な病に冒される。


 病原菌は、病原菌の宿主の元に戻したほうがいいから、返しにきたのじゃ」


 アンドレーはどす黒い目をしていた。


 血気盛んな息子が腹を立てているのが目に見えてわかった。


 町長も、息子の行為の非道徳性を忘れて、侮辱された怒りを目に浮かべていた。


 彼は、道徳よりも名誉を愛する貴族的な心の持ち主であった。


 そんな人間にとって、アンドレーの言葉は許しがたきものであった。


 ふふふふふ。町長は、怒りのために笑うのが精一杯。


 息子は、堂々とアンドレーを睨みつけていた。


 町長が、アンドレーが差し出した袋を覗いた。


 銀貨がザクザク入っている。


「これはこれは、息子が大変無礼なことをいたしました」


 彼はそう言って、ポケットの財布からありったけの金貨を出して、銀貨の袋に流し込んだ。


 ものすごい金額になる。


「お嬢さん。これでどうです? 不要な争いをしても、お互いなんの得もない。そうでしょ?」


 スザンネは、うつむいたまま唇を噛み締めた。

 

 彼女には、彼の言ったことが間違ってはいないことがわかっていた。


 こちらはただの村娘。


 権力者を相手に戦って、何になるというのか。


 スザンネの返事を待たずにアンドレーが言った。


「得などなくて結構じゃ。


 不要な金銭の返却はできた。


 もう用はないから失礼する」 


 アンドレーが立ち上がった。


「スザンネ。帰るぞ」


 アンドレーに促されて立ち上がった彼女の頬は濡れていた。


 二人はドアの方へ歩いた。


 案外、潔く退散してくれたことに、町長は安堵のため息をついた。


 息子の方は勝ったと思い、気が大きくなって、ついついこんなこと言ってしまった。


「腰抜け野郎」


 アンドレーは、ドアの前で止まった。


 その様子を見て、息子は嬉しそうににやけた。


 権力に守られた俺はチートだ、とでも思っているようだ。


 顔には優越感がみなぎっている。


 アンドレーが振りかえった。


 感情のわからぬ顔をしている。


 彼は、ゆっくりゆっくりと息子に近づいた。


 息子は、やれるもんならやってみろ、とでも言いたげな目つきでアンドレーを挑発した。


「暴力事件を起こせば、損をするのはコイツのほうだ」


 町長はそんなことを考えていて、余裕をかましていた。


 息子の目の前に迫ったアンドレーが低い声で言う。


「利息があったのぅ」


 意味がよくわからない。息子は小首をかしげた。


「昨日の晩から今までのあいだ、貴様から不用のカネを借りていた。その分の利息を返さねばならんな」


 息子は、まだ意味がわからないらしく、怪訝な顔をした。


 次の瞬間であった。


 アンドレーの右拳のフックが、まるで隕石の衝突のような衝撃をもってして、息子の頬にめり込んだ。

 

 息子の体は、確かに宙に浮き、玉が飛ぶような放物線を描いて吹き飛んだ。

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