第3話 村娘と権力者の息子

 翌日、アンドレーが書斎で本を読んでいると、女がひとり駆け込んできた。


 彼女の名はスザンネ。14歳の小柄な村娘でアンドレーのハーレム女のひとりだ。


 彼女が、アンドレーに抱きついてわんわんと泣いた。


「どうしたのじゃ」


 彼が彼女の頭をヨシヨシとなでた。


 彼女の髪は赤毛だった。


 14歳の艶が美しい。


「わたし、もうお嫁にいけない!」


「なにがあったのじゃ」


 彼の口調がこんななのは、前世の僧侶時代の名残りだろう。


 僧侶口調のイケメン、アンドレー。


 スザンネは、昨夜の出来事を涙ながらに話した。


 となり街で大きなお祭りがあり、スザンネはコンパニオンの仕事で呼ばれた。


 この村の娘たちにありがちな小遣い稼ぎだ。彼女は、そこで出会ったそこそこの権力者の男に誘われて、一緒に食事をした。


 相手の男は、スザンネの食事に睡眠薬を混入させた。


 薬で眠らされた彼女は、男の住処に連れられ、そのまま美味しく食べられた。


 薬を使った強姦である。一応、小遣いはちゃんとくれた。


「一緒に食事をしてくれたら、お小遣いをあげると言われたんです。


 彼には悪い噂が立っていることを私は知っていました。

 

 だから、甘い話に乗っかった私がいけないんです。だけど、まさか、あんなことまでされるなんて……」


「お小遣いはいくらもらったんじゃ?」


「10000Gです」


 相手の男は、10000Gで14歳の娘を買い叩いたのだ。


「そのお金は使ったか?」


「いいえ。まだ、そのまま残っています」


 アンドレーは本を閉じて立ち上がった。


「行こう」


「どこへです?」


 アンドレーは、壁に立てかけてあった剣を握って答えた。


「決まっているじゃろう。不用なカネを返しにいくのじゃ」


 アンドレーの家には、五つほどの部屋があって、そこに百の女が暮らしている。


 せせこましくて窮屈なはずなのに、女どもはちっとも嫌そうな顔をせずに、ニコニコしながら暮らしている。


 彼女たちは、異常なまでに彼に惚れ込んでいるようだ。


 アンドレーがスザンネを連れて外出しようとすると、その気配に気づいた女どもがどっと玄関に押し寄せてきた。


「どこへ行かれるのです、アンドレー様」 


 女どもが次々に問う。


「スザンネが不用の金銭を受け取ったので、返却に向かう」 


 彼は、静かな口調で「心配無用じゃ」と言って、スザンネとともに家を出ていった。


 草原の道を半日ほど歩き、隣町に到着した。


 昨夜のお祭りの後片付けが、まだ少しだけ残っていた。


 広場には、ゴミが散らかったままだった。


 この街は、ここ数年で、ずいぶんとマナーが悪くなったらしい。


「だらしのない街だ」 


 アンドレーが呟くと、スザンネが言った。


「去年、町長が変わったんです。それ以来、街の雰囲気が一変しちゃいました」


 二人は役場の前にきた。木造二階建てだ。


 その隣にレンガ造りの新しい建物が建築中だ。


 たくましい大工たちが、大声を張り上げながら作業に精を出している。


「新しい役場を建てているらしいです」


 スザンネが暗い顔で言った。


「詳しいのう」


 スザンネが苦笑いで言う。


「昨夜の彼が食事中に教えてくれたんです。


 彼は新しい町長の御子息ですから」

 アンドレーの目つきが険しくなった。


 二人は役場に入った。


 アンドレーが受付嬢にたずねた。


「町長の息子はどこじゃ?」


 受付嬢は怪訝顔だ。


「どういったご要件でしょうか?」


「昨日受け取った不正なカネを返しに来た」 


 アンドレーの声が役場の中に響いた。


 その瞬間、利用者と職員たちの視線が、彼らに集中した。


 役場のフロアに、不正なカネという言葉が響けば、そうなるのも当然かもしれない。


 役場はホワイトでなければならない。


 受付嬢が、ちょっと困った顔をしながら、小声でたずねた。


「あなたはどちらさまですか?」


「となりの村の者じゃ。


 新しい町長の息子から不正に貰い受けた金銭の返却に参った!」


 アンドレーが、わざとらしく声量を上げた。


 奥の方から、職員が慌てて出てきた。


「あの、とりあえずこちらの方でお伺いします」 


 職員が、応接室に彼らを通そうとするが、アンドレーは応じなかった。


「居場所を教えて頂ければこちらから参る。


 奴はいまどこにおるのじゃ!」


 役場は、ものすごい緊張に包まれた。

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