第2話 賢者のハーレム!? 女神の予感的中

「あっちゃー、やっちゃったー」


 女神が自らのミスに気づいたのは、一週間後のことであった。


 あまりにもヘンテコなスキルの組み合わせに、上司が不審を抱いて女神に指摘したことがミス発覚のきっかけだった。


「行ってきまーす!」


 女神は、元修行僧の彼に謝罪するために、彼の世界にテレポートした。


 女神がテレポートしたのは「旅立ちの村」であった。


 この世界に転生した者は、みなここで人生をスタートさせる。


 初心者に易しいモンスターが生息する草原に囲まれた村だ。


 近代的なものはほとんどなく、気の優しそうな村人が、のほほんと暮らしている。


 女神は、その村の中央広場に姿を現した。


 彼女が姿を現したちょうどそのとき、広場を通りかかった村人の男がいた。


「よお女神さま!」


 その青年は、昨日ここへ転生してきたばかりのビギナーだった。


「ごきげんよう。この世界の住み心地はどう?」


 青年が、苦笑いした。


「それが……」


 彼には困り事があるらしい。


 しかし、なかなか大声で言える内容ではないらしい。彼は小声で、困り事の内容を打ち明けた。


 うんうんと頷きながら彼の話を聞きいている女神。額に冷や汗が浮かんできた。


「マジ? ……そんなことになってんの?」


(きっと私のミスのせいだ!) 


 女神は彼と別れると、慌てて元僧侶の住処に駆け出した。

 

 ドアをあけるなり、女神がギョッとした顔で立ちすくんでいた。


 むせ返りそうなほど甘ったるい香りが、元僧侶の寝室に充満していた。


 女神は、その香りが、女がつける香水の匂いだとすぐにわかった。


 涅槃や菩提心や金剛心のスキルを要求した人物の部屋だとは到底信じがたい光景。


 六畳の部屋に、百の女が咲いていて、ベッドの上の男に奉仕していた。


 どの女も男好きのしそうな色物ばかりで、例えるなら、フラワーショップの最前列に陳列される花。その花を贅沢にブーケにした、オールスター夢の共演の光景。


(なんじゃこりゃーッ!!)


 彼は、性欲以外の欲望をオフにするスキルと、「イケメン」という性欲を謳歌するスキルを併せ持ってここへ転生した。


 ということは、なにが起こりうるか? 女神はそれを想像して、ビクビクしていた。


 女神は、おそろしい想像が現実のものになっていることを感じ、戦慄を覚えた。


(まずい、このままじゃ、この村の女が、いや、この世界のすべての女が、コイツに喰われる!)


 女神は慌てた。


「あの! アンドレー様!」


 アンドレーとは、元僧侶の新しい名前だ。クラスは賢者。


(おいおい、こんな賢者はまずいだろう!)


「おはよう女神。何の用じゃ?」  


 アンドレーは、それはそれは見事な顔つきであった。チート級のイケメン。


 彼が、女の花園の隙間から顔を出し、女神にあいさつした。


(やだぁ……イケメン……ってダメダメわたし!)


 女神は、とろけそうな気持ちを一生懸命に自戒した。


「あのぅ、ちょっとよろしいですか?」


 アンドレーは女たちを寝室に残し、女神を客間に通した。


 アンドレーはバスローブを無造作に羽織っていた。


 ローブの隙間から見える胸板が凄まじかった。


(なんちゅうマッチョな賢者や……) 


「たいへん申し上げにくいのですが、ちょっとした手違いがありまして、あなたのデフォルトスキルを再入力する必要が出まして」  


「再入力?」


「ええ」


 女神は、スキル再入力の誓約書を差し出した。


 アンドレーは怪訝顔で誓約書を睨んでいた。


「転生前に言ったとおり、来るもの拒まず去るもの追わずじゃ。


 別にいまさら変更を希望したりせん」


「そうですか……」 


(まぁ、別に義務じゃないから本人がよかったらいいんだけど……) 


「用はそれだけか?」 


「あっ、はい。そうです」


「ではさらばだ。我はまだ朝の仕事が残っておるのじゃ」


(朝の仕事ってなに?)


 アンドレーは、そっけない感じで寝室に戻った。


 彼は、心ではこんなことを思っていた。


(この世界に、女に勝る芸術はない)

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