女神の大罪―煩悩を断ち切った僧侶が天寿を全うして異世界に転生したら女神様のミスのせいで性欲のモンスターに化けてハーレムを作っちゃった話―
ドロップ
序章 彼の名はアンドレー。それはイケメンチートな転生者
第1話 ケアレスミスが大惨事の予感
ここは天界の転生事務局。天寿を全うした地球人の魂が集まる場所。
そして、魂を次の世界へ送り出す場所。
今日も、数え切れないほどの魂がぞろぞろとやってきて、転生事務局はごった返していた。
個室の窓口が無尽蔵にならんでいて、それぞれに魂が行列をつくっている。
窓口には事務女神がひとりづつ配置されていて、彼女たちが魂と面談して転生先を決める。
「はい、では次のかたどうぞ」
18番窓口の事務女神がいうと、老人の魂が入ってきて椅子に座った。
なんだか堂々とした、只者ならぬオーラを漂わせる老人であった。
女神がパソコン画面を見ながら、老人の経歴を確認した。
「まぁ、すごい! 僧として修行を積んで、みごと煩悩を断ち切ったんですね」
「左用」
老人が毅然として答えた。
「では、転生先の第一希望をお聞かせください」
「希望などない。
人は希望を持つから苦しむのだ。
希望こそ苦悩の根源。
極楽往生への近道は、余計な希望を捨てることじゃ」
女神は苦笑いした。
「そうですか……」
(やりにくい人だな……)
「お答え頂かないと事務作業を進められないので。こちらの都合で申し訳ないですが、とりあえずなんでもいいから希望を出して頂けませんか」
魂は、ほとんど考える暇もなく答えた。
「どこでもよい」
「それだとちょっと私が困るんですが……」
魂はまったく興味がないといった風にパソコン画面を指さして言った。
「そこでよい」
画面に映っていたのは、ひとつ前の中年男性の魂が選んだ転生先だった。
剣と魔法の世界だ。
バージョンはかなり古いものであった。
「……ほんとうにそんな選び方でよろしいのですか? やり直しはできませんよ」
「構わん。来るもの拒まず去るもの追わずじゃ。
なにが来ようが、有り難く味わおうではないか」
(ホントに大丈夫か?)
「わかりました。では、転生先はこちらに決定させていただきます」
女神がエンターキーを押した。
「こちらの世界に転生するにあたって、あらかじめ〈クラス〉を決めて頂く必要があります。
〈クラス〉とは、例えば魔法使いとか、剣士とか……」
「僧侶だ」
(転生しても僧侶って、どんなけ好きやねん)
「僧侶ですか。うーん……あまり人気がありませんがよろしいんですか?」
「人気のない道の方が修行が
「もっと華形のクラスがたくさんありますよ?」
「華形? ダメじゃ。華のある世界は幸福が多すぎて修行の難度が上がってしまう」
(向上心が高いんか低いんかようわからん……)
「か、かしこまりました。クラスは僧侶に決定ということで。
では次に、5つデフォルトスキルを設定していただきます」
「なんじゃそれは?」
「この世界では、スタート時から5つのスキルを持つことができるんです」
女神はレストランのメニューみたいなものを魂に差し出した。
「その中から選んでください」
魂はメニューを見ようともせずに、ぶっきら棒な声で答えた。
「涅槃」
女神は困った。
「涅槃というスキルはないんですが」
「菩提心」
「え~っと、それもありませんね」
「金剛心」
「あの、メニューの中から選んでいただけますか?」
(絶対に転生先間違えてるこの人)
魂は、メニューに目を通したあと、満足そうに答えた。
「では、不食、不眠、不財、不名誉、不色(色とは性欲のこと)の5つを頼む」
女神は目が点になった。
(不食、不眠、不財、不名誉、不色?
食べる楽しみも、寝る楽しみも、お金を稼ぐ喜びも、人から注目される快感も、そして、恋するキモチも要らないってか?
こいつ、なんのために生きてるんだ!?)
魂の意志を尊重することが原則だ。
だから、女神は、信じられん!という顔をしながらも、「かしこまりました」と答えて、マウスでカーソルを動かしながらスキルを選択していった。
彼女は、その時、大きなミスを犯してしまった。
5つのスキルを順番に入力し、そして、最後の「不色」を選択したつもりが、カーソルが少しだけ下にずれて「イケメン」スキルをクリックしてしまった。
女神の仕事は忙しく、彼女は疲労困憊であった。
だから、そのミスに気づかないまま、エンターキーを押してしまった。
彼が選んだ5つのスキル。
不食、不眠、不財、不名誉、イケメン。
人間には五つの欲があると言われている。
食欲、睡眠欲、財欲、名誉欲、性欲。
つまり元僧侶の彼は、女神がミスをした結果、四つの欲を捨てて、性欲だけを残したイケメンとして転生することになった。
この歪なスキルを備えて、元僧侶は 剣と魔法の世界に転生する。
彼は、新たなる世界で、一体どんな人生を歩むのであろうか。
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