視えるDiary

@beck33

第1話

 【2月 4日】


  川の中に立っている男性。三十代くらいか。静かに閉じた目の端から涙がこぼれていた。直立不動。色はなし。



 【2月13日】


  前を走る車のリアワイパーの上に座る男性。ゆえにすごくサイズは小さい。上はランニングシャツ、下はくすんだ色のズボン。全面一面に血が飛びちっている。顔は笑顔。



 【2月16日】


  前から歩いてくる女性。透きとおっている。黒いワンピース。ほつれた長い髪、うつろな目。決して目が合うことはない。かれらは、こちら側の世界を見ていない。



 【2月21日】


  眠っている妻の横に小さい犬。小刻みに震えている。舌をだし、もがくように前脚を動かす。犬は飼っていない。


 

 【3月 5日】


  コンサート会場にて。浮遊する三体。親子か?女性は美しい。薄い。男性は頭から血を流している。

 子どもは、男の子。つねに女性のそばにいる。指を曲げて何かの形をあらわしているが、それが何なのかはよくわからない。



 【3月11日】


  空一面に数えきれないくらい多くの人。東から西に流れてゆく。合掌。



 【3月18日】


  父の背に張りつく女。目がない。口元は笑っている。

 


 【4月 7日】


  胴の長い牛を連れた男。腹が裂け、腸があふれかけている。ゆっくり移動する。国道に出て消えた。



 【4月23日】


  レストランの床に寝そべる右腕のない男。うつぶせなので顔はみえず。その傍らで男を指さす女。目が血走り激しく憤っている。食事を半分以上残し退出。



 【5月 3日】


  職場近くの坂道の途中で腰のところで半分に折れた女性。仰向けになった後頭部の下にふくらはぎが当たっている。見開かれた目、口が動き何かをつぶやいている。



 【5月18日】


  深夜、寝ているぼくの耳元で荒い息。すぐ耳元で音がする。薄目を開けると、ぼくの周りを男が歩いてぐるぐる周っている。首から上が見えない。耳元で音がするということは、この男の首はぼくの頭のすぐ傍にあるのか?



 【6月 4日】


  口からあふれる血を両手で受けている女。踏切待ち。電車が横切る向こう側で佇んでいる。電車が通りすぎ遮断機が上がった途端、女の首が落ちる。思わず声を上げ、周りから白い目で見られる。  



 【7月15日】 


  本棚の本の隙間から出入りをくり返すおばあさん。本屋にて。なぜか児童書のコーナー。



 【7月29日】


  黒く変色して、パンパンにふくれた女の子らしき物体を大事そうに抱える女性。目は見開かれ、歯をくいしばっている。無念の念が壁となってこちらに迫ってくる。銀行の前にて。  



 【8月 4日】


  USJにて。ジュラシック・パークのアトラクション内。長い髪で顔がみえない、白い服の女性。しかし、これはなぜかその場にいあわせた他の人にも見えていた様子。「さだこ、さだこ」という声がそこかしこから聞こえる。



 【8月 7日】


  プールに設置してあるウォーター・スライダーを永遠に滑りつづける兵隊。白い手袋で敬礼したまま何度も何度も滑っている。



 【8月31日】


  金縛り。薄目を開けると月夜に照らされた部屋の壁に大きなクモ。手のひらほどある。しかし、よくよく目を凝らすと、それは手首。手首がおそろしくはやく壁を動きまわっている。近くで話し声。動か ない首を無理やりそちらに向けると、紙みたいに薄い男が二人、一心不乱に話しこんでいる。



 【9月 6日】


  通りすぎていったママチャリのお母さん。自転車の前後のタイヤに抱きつく人影。はげしく回転して いるので、物体としてしか認識できない。



 【9月17日】


  壁際に設置してあるテレビの裏に大きな目の男性。目から上だけがテレビの上部から見えている。彼 らは、こちら側の世界を見ていない。ゆえに目が合うことはない。 



 【9月23日】



  今日、ぼくも彼らの仲間入りをする。   

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