第44話:訴訟
神歴1817年皇歴213年5月17日キャバン辺境伯領・ロジャー皇子視点
闇商人はやはり憶病なほど慎重で、主人がいるべき部屋には影武者がいた。
本人は地下室で次の悪事を考えていた。
影武者と荒事担当の幹部店員から、主人の隠れている場所と出入口を聞き出して、後は魔力にまかせて押し入って捕らえた。
「領都を騒がす極悪人、大人しく捕まれば少しは罪を軽くしてやるぞ!」
地上の大商館にいた表の店員だけでなく、大きくて広い地下室にいた極悪人も全員捕らえて、魅了魔術で支配下に置く頃には、キャバン選帝侯の家臣がやってきた。
「皇国の罪なき民を奴隷に落として異国に売り払った大罪!
キャバン選帝侯が何も知らなかったとは言わせん!
この大罪を隠そうと、皇子である俺を殺して口を封じる気か?!」
俺を皇子をかたる偽者と断じて捕らえようとするから、大声でキャバン選帝侯がやった大罪と、家臣がやろうとしている叛逆を指摘してやった。
その上で、キャバン選帝侯の家臣だけでなく、見物に集まっていた平民にも魅了魔術をかけて、ウワサを領外にまで広めるように命じた。
更に家臣にはキャバン選帝侯の罪を認めて謝罪するように命じた。
「申し訳ございません、主君に命じられてしかたがなかったのです。
選帝侯家の家臣として、主君の命令に従わないと不忠になってしまいます。
他領の平民を誘拐して奴隷に落としただけでなく、建国皇帝陛下の定められた国禁を破って異国に売り払うなど、やりたくなかったのです」
本当は、末端の徒士ていどの家臣では、国禁破りの大罪は知らされていない。
全て俺が魅了魔術で言わせたウソの証言だが、やっている悪事は事実だ。
1人2人の家臣ではなく、何十何百の家臣に自白させる。
騒ぎを聞きつけて集まってくる家臣と平民全員に魅了魔術をかける。
その全員に他領にまでウワサを広めるように命じる。
特に家臣には、皇国で役職を得ている貴族家まで行って訴えるように命じる。
「お前たちに命じる、犯した大罪を少しでも詫びる気が有るのなら、城に蓄えられている金銀財宝、食糧の全てを出して被害者に与えよ!
捕らえられていた者に食事をさせ風呂に入れ、服と罪を認めた書状を与え、賠償金を支払え!」
俺の支配下にあるキャバン選帝侯の家臣たちは、命じられたまま城に戻って金銀財宝や食糧を被害者に渡そうとした。
だが、まだ俺の支配下に入っていないキャバン選帝侯の家臣が抵抗する。
俺がついて行き、更に魅了魔術を放って抵抗する家臣も支配下に置こうとしたが、並の魅了魔術では支配下に置けない者がいた。
「選帝侯閣下の大きな国家戦略は、お前のような未熟なガキには分からん!
百人以上いる皇子の1人や2人、今更もう1人死んでも皇国には影響ない!」
選帝侯が抱えている魔術士が俺の行く手をさえぎった。
それどころか、皇子の俺に向かって火魔術を放って来た。
魅了魔術1つ程度では、魔術士の防御を打ち破れなかったのだ。
敵の魔術士は防御魔術を展開していない。
身体を覆う自分の自然な魔力ではじいているのだろうが、それなら簡単な話だ。
敵の火魔術は魔力塊で打ち消し、相手が支配下に入るまで魅了魔術を叩き込む!
「申し訳ございません、私が愚かでございました!
建国皇帝陛下の国禁を破るのは、選帝侯の思い上がり以外の何物でもありません。
卑小な存在でしかないのに、自分を有能だと勘違いしているのです」
ホブゴブリンていどなら魅了できる魔術を10個叩き込んでやったら、簡単に敵の自己防御魔力を上回った。
同じように抵抗する者は結構いた。
魔術士だけではなく、剣士や槍士のような武術専門の家臣も、ダンジョンや魔境でレベルアップしていたのか、1つ2つの魅了魔術では支配下に置けなかった。
中には100くらいの魅了魔術が必要な猛者がいた。
その全員を魅了魔術で支配下に置き、選帝侯の本拠地、領城を占拠してやった。
家臣筆頭である領地家宰、チーフ・リテーナーとかランド・スチュワードと呼ばれる重臣も支配下に置いた。
家臣筆頭以下の重臣たちに、キャバン選帝侯の国禁破りを自白証明する複数の書状に書かせ、皇帝、皇父、他の選帝侯4人、5人の宮中伯に訴えさせた。
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