第43話:闇商人の本拠地
神歴1817年皇歴213年5月17日キャバン辺境伯領・ロジャー皇子視点
ようやく闇商人の手先から主人の名前と居場所を聞き出す事ができた。
手先にかけられていたのは、魔術的な呪い1つだけではなかった。
魔力を弾く性質の寄生虫、数十匹の中に呪いを込めていたのだ。
まだこの世界には、普通にサナダムシ、ギョウチュウ、カイチュウ、アニサキスなどの寄生虫が人間と共存している、だから見過ごしてしまっていた。
普通寄生虫の中に呪いを仕込むなんて考えないだろう!
全ての寄生虫を、手先の身体から取り除くのに時間がかかってしまった。
俺が助け出す前に、領地からだされてしまった誘拐被害者が、まだ闇商人の手元に残っていればいいのだが、どこかに売られた後だと助け出すのが難しくなる。
少しでも早い方が良いので、魔力を惜しむことなく使った。
身体強化をして、ソニックムーブを起こさない時速1000kmで駆けた。
その日の内に、闇商人が本拠地にしているキャバン辺境伯領に着いた。
「テン・サゥザンド、マジカル、パワー、テン・サゥザンド・パラライズ」
キャバン辺境伯ランバート家は、建国皇帝の覇業を助けた忠臣の子孫。
無役の時は辺境伯だが、代々選帝侯を務める譜代名門中の名門だ。
当代も選帝侯を務め、俺たち兄弟姉妹に刺客を送って来た糞野郎だ!
いや、俺たち兄弟姉妹だけでなく、自分が思い通りに操れない全ての皇子に刺客を放ち、国禁を破って異国との密貿易をしている。
それも、ただの密貿易ではなく皇国民を奴隷として売り払うなど絶対に許せない!
だから、万全の準備をして、闇商人の主人と手先を全員生け捕りにする。
彼らの証言と証拠を突き付けて、キャバン選帝侯を処刑する!
「テン・サゥザンド・スリープ、テン・サゥザンド・チャーム」
今回の件では魔力を惜しまず全力で準備する。
安全のために1万ずつの魔術を展開しておく。
特に攻防のどちらにも使える魔力塊は絶対に常時展開しておく。
腹の立つことに、闇商人には表の顔があった。
キャバン辺境伯家の御用商人として、領都に堂々と大きな商館を構えていた。
現役選帝侯の権力を背景に、皇都でも大きな商館を構えていた。
「控えおろう、俺は皇国第14皇子ロジャーである!」
俺は、闇商人の商館前で堂々と名乗りを上げた。
闇商人は厚かましく人通りの多い表通りに店を構える
だがそれだけに、魔術を使った拡声で話すと、多くの人が注目する。
「皇国の定めを破って異国との商売をやるのは許せない!
特に、建国皇帝陛下が定められた国禁、皇国民を奴隷として異国に売ったのは絶対に許せない!
しかも、その皇国民は、他領の平民を誘拐した被害者だ!」
立ち止まった人々が驚きの表情を浮かべている。
表向きは善良な商人を演じていたのかもしれない。
上手く言い逃れされないように、幹部店員に魅了の魔術を叩きつける。
末端の平店員が密貿易の事を知っているはずがない。
知っているのは、かなり上の幹部店員と荒事担当の店員だけだ。
誰が知っているのかは、俺が名乗りをあげた時の表情で分かっている。
「申し訳ございません、主人に命じられてしかたがなかったのです。
私も、何の罪もない女子供を、奴隷と偽って異国に売りたくはなかったのです。
主人も、選帝侯閣下に命じられて仕方なくやったのです」
「黙れ、誰に命じられたからと言っても、やってはならない事がある!
建国皇帝陛下になり代わり、俺がお前たちに神罰を下してくれる!」
俺は、驚きで固まっている人々の心に残るように、大きな声で演じた。
それだけでなく、魅了魔術をかけて、今聞いた事を広めるように命じた。
これで、選帝侯の家臣がウワサを封じようとしてもできなくなる。
家族や友人にウワサを広めようと走って行く人々を目の端に捕らえながら、商館の奥に駆け込む。
「ハンドレッド・チャーム」
使った魅了魔術を補充展開しながら商館の奥に進む。
多重同時展開している索敵魔術で商館の造りは分かっている。
内部にいる人間は、老若男女関係なく魅了魔術を使って支配下に置く。
誰が主人なのか、あるいは影武者なのか、主人以外に本当の権力者がいるのかいないのか、分からなくても構わない。
索敵魔術に引っかかる人間全員、魅了魔術の支配下に置いてから聞きだせばいい。
1人も逃さなければ、捕まえた後でじっくりと聞きだせる。
とりあえずは、間取りから商館の主人と思われる人間から聞きだす。
「正直に全て話せ、捕らえた人間はどこに隠している!?」
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