第42話:堆肥
神歴1817年皇歴213年5月16日バカン辺境伯家領都外の開拓地
ロジャー皇子視点
「殿下、本当に人間の大小便で肥料を作る気ですか?」
俺の命令にスレッガー叔父上が否定的な返事をする。
多くの人間から反対されたのだろう。
実際の成果、実りを多さを感じられないと受け入れられないのだ。
「俺がこれまで1度でも本気じゃなかった事があるか?」
「無いから困っているんですよ、人の大小便ですよ、皆嫌がっています」
「牛馬の大小便は肥料にしていたんだ、人間も同じだと分からないのか?」
「説明されたら頭では理解できますが、気持ちがねぇ~」
「分かった、家臣や領民に無理矢理やらせるのは止めよう。
希望した者、俺の話を信用する者だけにやらせる」
「殿下、そんな風に言ったら、みんな嫌な内心を隠してやりますよ。
皇子殿下で次期辺境伯、命令には逆らえないですよ」
「だったら犯罪者奴隷にやらせる、連中なら何をやらせても罰のうちだ」
「そりゃあいい、辺境伯家を牛耳って偉そうにしていた連中が、平民の大小便にまみれて働くんだ、恨みの有る連中も殺せと言わなくなるでしょう」
「納得したならこの件はこれで終わりだ。
狩りをする班、囚人を見張って働かせる班、領内を見廻る班、問題が起きないように上手く扱ってくれ」
「はっ、行って参ります」
守役で騎士隊長のアントニオと騎士長のウッディには、元からの役目通り、皇国からつけられた護衛騎士の指揮を任せている。
血につながった叔父で、心から信用しているスレッガーには、個人的に新しく召し抱えた騎士や徒士の指揮を任せている。
500人前後、実質的な戦力は350人ほどだが、これだけの騎士や徒士を動かせるのは、領民3万人以上の子爵になる。
皇国での身分は領民300人の騎士に過ぎないスレッガー叔父上だが、実質的な力は子爵級になっている。
そんな権力と引き換えに、これまでスライムに処理させていた人の大小便を、肥溜めとか野壺と呼ばれる物を造って貯めなければいけない。
上手く発酵させられたら、3カ月で上質な肥料ができる。
失敗したら、耐えがたい独特の悪臭を振りまく汚物に成り下がる。
皆が嫌がる気持ちは分かっている、俺だって本当はやらせたくないのだ。
だが、誰に嫌がられても、人糞から肥料を作らないといけない。
バカン辺境伯領では、大森林側だけでなく、反対側にあるレイブリ魔山からもモンスター災害があり、更に南の大山脈からのモンスター災害まであるのだ。
災害のない中央部と北側の農地で穀物を作っているが、それも農地を耕作地、放牧地、休耕地の3つに分ける三圃制農業だ。
実際に穀物に作れる耕作地は全耕作地の1/3しかないのだ。
これは連作による農地の栄養不足が原因だから、解決するには農地に肥料を加えるしかない。
ノーフォーク農法を取り入れるだけでも大きく変わるが、それだけでは足らない。
少なくとも俺が満足できない!
麦翁と称えられた権田愛三の農法を取り入れたら、これまでの10倍20倍の収穫量になるのは間違いない。
だがそのためにはどうしても肥料が必要なのだ。
海が近ければ、小魚を購入して肥料にもできるが、海から遠く離れたバカン辺境伯領では、それ以外の方法で肥料を作るしかない。
ラノベ愛読者で、転生戦国仮想戦記も大好きだった俺は、ひと通りの農業改革法が頭に入っている。
刈り草、人糞肥料、ノーフォーク農法、六圃輪栽式農法、権田愛三式麦作り。
最終的には立毛間播種を活用した寒冷地での2年3作を目指す。
完全な二毛作や二期作は無理かもしれないが、2年3作は可能だと思う。
だがそうなると、放牧地が無くなってしまう。
これまでのような三圃制とは違い、放牧に頼らない肥料作りが必要になる。
その最初の方法として、人糞を集めて肥料にする実験をやるのだ!
「殿下、大森林の落ち葉集めですか、希望する領民が意外と集まっています」
スレッガー叔父上が戻ってきて報告する。
今はまだ農閑期なのか、それとも忙しい合間をぬって集まったのか?
やはり肉食べ放題は遣り過ぎだったかもしれない。
早急に領都以外でも肉食べ放題を始めないと、本当に領内の農地が全て荒地になってしまうかもしれない。
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