第45話:大森林沿い街道
神歴1817年皇歴213年5月18日某子爵領・ロジャー皇子視点
キャバン辺境伯家の家臣全員に魅了魔術をかけて操った。
皇都や旧都、商都と教都にいる家臣は魅了できなかったが、領内に残っている家臣は全員支配下に入れた。
領城に蓄えられていた金銀財宝と食糧は全て持ち出させた。
馬車に牛車、あらゆる獣車に人力の荷車まで動員して運ばせた。
捕らえられていた1万近い人々を守らせて、バカン辺境伯領にまで行軍させる。
領内に残らせた平民には、引き続きキャバン選帝侯の悪事をウワサさせた。
できる限り領地外に広めるように命じた。
俺は、自分の存在を印象付けるようにして街道を南上した。
誘拐されていた被害者とキャバン辺境伯家の中にいる有望な者を探した。
側近にできるような、智勇仁を兼ね備えた者は滅多にいない。
特に家中の風紀が悪いキャバン辺境伯家には1人もいなかった。
単に強いだけの奴ならそれなりにいたが、心の腐った奴などいらない。
ありがたい事に、誘拐された被害者の中には少数だけいた。
地獄のような環境の中で、自分よりも弱い者を助け続けていた者がいた。
そんな人間こそ信じられるので、側に置いて鍛える事にした。
普通に配下として使う気になる程度の者なら結構いた。
誘拐された被害者から数多く選んで、弱っている被害者を助けさせた。
キャバン辺境伯家の家臣の中には、普通に使える者もほとんどいなかった。
これまで犯してきた罪を償わせた後でも、使う気にならない者がほとんどだった。
極少人数だけ、兵卒として雇う気になっただけだった。
「殿下、この度はお手柄でございました。
お疲れでございましょう、ぜひ当家にお泊りください」
キャバン辺境伯領は、外国と密貿易をおこなえる魔海に面している。
巨大な正方形をした皇国の、北東部に領地があるのだが、そこからバカン辺境伯領に向かうには、大森林を沿うように造られた街道を南上しなければいけない。
皇国の街道は、基本皇都を中心に放射線状に整備されているが、皇都は皇国の中央から随分と北に寄り過ぎている。
そのため、皇都から遠く離れた東には大森林に沿った大森林街道、西には大砂漠に沿った大砂漠街道、南には大山脈に沿った大山脈街道がある。
ただ、北の魔海街道は海沿いにはない。
魔海から1日南上した場所にある、皇都から東西に通じている。
そんな大森林街道沿いに領地がある、某子爵家の領地家宰、ランド・スチュワードがしきりに子爵館に宿泊していくように言うが、そうはいかない。
「お前の提案はうれしく思うが、俺には誘拐された領民と自首してきた犯人をバカン辺境伯領に連れて行く責任がある。
俺がここに泊まったら、領民と犯人が何所にも行けなくなる。
長く隊列を組む者たちが野宿しなくてすむように、手配しなければならん」
「そのような雑事をロジャー皇子殿下にやって頂くわけにはいきません。
領内全ての村々に、被害者と犯人を泊めるように手配をさせて頂きます。
バカン辺境伯領までの貴族や士族にも、宿泊の準備をするように使者を送ります。
ですから、どうか我が家にお泊りください」
「分かった、お前を信じて俺が庇護する者たちを任せる、期待を裏切るなよ」
「おまかせください、この命にかけまして、万全の手配をさせていただきます」
某子爵家の家宰は本当に良くやってくれた。
キャバン辺境伯領から延々と続く馬車と人の群れを、1人の野宿者もださないように、領民を総動員して成しとげてくれた。
しかも自領内だけでなく、本当に他領にも使者を送って、明日以降の宿泊に問題が起こらないようにしてくれた。
行軍の速度は極端に遅くなったが、誘拐された人の中には重病人もいたので、元々素早く領地に戻る気はなかった。
「よくぞ見事に不幸な者たちが安心して休めるようにしてくれた。
その手腕を賞して感状と褒美を与える」
俺はそう言って戦功を褒め称える直筆の表彰状、感状を与えた。
行軍中の宿泊手配は軍事に関係するので、感状を与えてもおかしくはない。
同時に、家臣領民に負担をかけた分、現金を与えた。
これからの行軍が少しでも楽になるように、万が一にも貴族士族や野盗に襲われないように、1000万ペクーニア(10億円相当)与えた。
これで他の領地も万全の準備と警備をしてくれるだろう。
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