第40話:開拓

神歴1817年皇歴213年5月1日バカン辺境伯家領都領城:ロジャー皇子視点


「殿下、領都に住む民は老若男女を問わず集まりました。

 全員に掲示板を運ぶ仕事か内臓を洗う仕事を与えました。

 次に何をすれば宜しいですか?」


 ゴート子爵領で新しく雇った徒士の1人が聞いて来た。

 ゴート子爵家に仕える徒士家の3男だったが、親と兄に奴隷と同じように扱われ、ゴブリンダンジョンに行かされていた。


 だから戦闘力もあるが、内政の方が向いている気がしたので、今はその力を伸ばす仕事を与えるようにしている。


「領都の周りにある荒地を耕させる」


「「「「「はっ!」」」」」


 バカン辺境伯領は大森林に近く、モンスターの暴走被害を何度も受けている。

 いや、東の大森林だけでなく南には大山脈がある。

 両方からモンスターが暴走してくるのだから、たまったものではない。


 領都の周辺は、作物を作ってもモンスターに喰い荒らされる可能性が高い。

 何年も収穫できなかったら、耕作する気力も無くなる。


 しかも近年は、10家と闇商人の影響でまともな政策が行われていない。

 バカン辺境伯家の予算を使って耕作を再開させる事もなかった。


 それどころか、家臣が領民を誘拐させて金に換えていたのだ。

 正確に調べさせたら、領民が半減している可能性すらある。


 闇商人の手先が言った3000人というのは、領都周辺で今年誘拐した人数だけなのかもしれない……

 

 やらなければいけない事は数多くあったが、最初のやるべきは、領民に仕事を与えて食べられるようにする事だった。


 どうせ仕事を与えるのなら、バカン辺境伯家のためになる事をさせる。

 誰も耕さなくなって荒れている畑を元通りの農地にさせる。


「グズグズするな、さぼったら飯抜きだぞ!」

「ギャアアアアア」

「お前のような腐れ外道が生かしてもらえているのだ、さぼらず働け!」


 10家の連中と悪事に加担した家臣領民。

 全員犯罪者奴隷にして重労働をさせている。

 死刑が確定している者も数多くいるが、働ける間は執行しない。


 領民の中には今直ぐ殺したいと思っている者もいるだろう。

 そんな者たちが、今直ぐ殺さなくても良いと思うくらいの過酷な労働をさせる。

 少しでも手を抜けば、家族を殺された見張り役が容赦のない罰を与える。


「モンスターが現れるか見張っておけ」


 ゴブリンダンジョンで鍛えた騎士と徒士が大森林を見張っている。

 開墾のために働いている領民が殺される事のないようにだ。


 俺が索敵魔術を多重展開しているので、不意を突かれる事はない。

 だが、索敵魔術を使える事は公にできないので、安心感がない。

 

 広範囲に効果のある麻痺と睡眠魔術が使えるのを明らかにしてしまった時点で、賢い奴には力がある事は知られてしまっているが、これ以上は知られたくない。


「飯の心配はいらない、腹一杯喰わせてやる。

 男も女も大人も子供も関係ない。

 自分の精一杯の力で働く奴は、成果に関係なく腹一杯喰わせてやる。

 ただし、手を抜く奴は明日から仕事を与えないからな!」


 朝は日の出前から火を用意してバーベキューができるようにする。

 働く前に腹八分目に肉が食えるようにしておく。

 腹一杯食べ過ぎて直ぐに働けない奴には拳骨を1つ喰らわせてやる。


 がんばって働くのは当たり前だが、働きにはそれに見合う報酬が必要だ。

 10時のおやつに軽く肉を食べさせてやる。


 当然昼も腹八分目に肉を食べるように指導する。

 昼も直ぐに働けないくらい食べ過ぎた奴には拳骨を喰らわせる。

 3時のおやつも軽く肉が食えるようにしてやる。


 それくらいたくさん食べないと働けないくらいの重労働をさせている。

 肉にはたっぷりの塩と香草をかけられるようにしてある。

 好みの味にして、流した汗の分だけ塩分を補給させる。


 そして最後は陽が暮れてもう働けなくなってからだ。

 約束通り、直ぐに動けないくらい腹一杯肉を喰わせてやる。

 それも臭いキツネやタヌキの肉ではなく、高級なオリックス牛肉だ。


 正直ちょっと問題が出て来た。

 肉食べ放題の話を聞いた、領都近くの農民が次々と集まって来た。


 掲示板を立てに行かせた者が、俺の事を良く言い過ぎたようだ。

 もしかしたら、領内全ての人間が領都に集まってしまうかもしれない。

 全ての農民が農地を捨てて領都に来てしまったら、今年の収穫が0になる。


 まあ、これは、ちゃんと話して村々に肉を分け与えれば何とかなる。

 問題は与えるべき肉の質だ。

 このままでは、この世界に流通した事のない肉を表に出さなければいけなくなる。

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