第39話:掲示

神歴1817年皇歴213年5月1日バカン辺境伯家領都領城:ロジャー皇子視点


 俺は10家の悪事を包み隠さず領民に発表した。

 手先になっていた、冒険者ギルドなどのギルド名と個人名を公表した。

 同時に、誘拐された人を助ける手伝いをしてくれとも伝えた。


 その効果は劇的だった。

 家族親戚縁者の誰かが行方不明になっている者がとても多かった。

 その中には、10家の家臣もいたのだから笑ってしまう。


 10家は、協力するふりをしながら陰では敵対していた。

 闇商人の手先が上手く操っていたのかもしれないが、互いの家臣や領民を誘拐しあっていたのだから、愚かとしか言いようがない。


 だから、大森林の近くにあった、被害者を一時的に置いておくアジトだけでなく、10家の領地にも誘拐して人たちを置いておくアジトがあった。

 全てのアジトに家臣を送って被害者を解放した。


 10家と協力していた、バカン辺境伯の直臣は全て捕らえて牢にぶち込んだ。

 誘拐の被害にあっていたとしても、10家などの陪臣も全員牢にぶち込んだ。

 あまりに多くの直臣陪臣を捕らえたので、見張りをする者が足らなくなった。


「皆に告げる、悪臣佞臣叛臣を捕らえたので人手が足りなくなった。

 バカン辺境伯家に仕えて領地を良くしたいと思う者は申し出ろ。

 最初は悪人を見張る簡単な仕事からやらせる。

 徐々に難しい仕事ができるように教えるから、安心して申し出ろ」

 

 領内のあらゆる場所に俺の言葉を書いた木板が張られた。

 日本の江戸時代なら高札場に掲げられるのと同じ物だ。


 御触書のように、役人を通して広める方法もあるが、今回はその役人の大半が捕らえられているので伝わり難い。


 そもそも、その役人が悪事をしていたのだから、残っていたとしても、俺が伝えたいことをちゃんと領民に伝えるはずがない。


 正しく伝えたい伝言ゲームでも、全く別の内容になってしまうのだ。

 最初からゆがめる気だったら、正しく伝わるはずがない。


 特に今回は、家臣を追放して平民を新しく召し抱えるのだ。

 追放されるかもしれない連中が正直に伝えるはずがない。


 だから領都にいる平民を集めて金を渡し、俺の伝えたい事を書いた板を、領内各地に運ばせた。


 ギリギリの生活をしていた領民が多かったので、出発させる前に、直ぐに食べられる肉を与えて体力が戻るようにした。


 肉がもらえると知った領都の民が一斉に集まったので、板の争奪戦が起こりそうになり、慌てて別の仕事を与えなければいけなくなった。


「慌てるな、仕事はいくらでもある。

 争うような奴には仕事を与えない、ちゃんと並ぶ奴には必ず仕事を与える。

 アステリア皇国第14皇子ロジャーとして約束する!」


 こういう時に皇子の地位はとても役に立つ。

 先を争って殴り合っていた連中が、慌ててケンカを止めて列に並び出した。


 彼らが疑わないように、フェルス豚の前脚と内臓付き下半身を山のように積み上げて、どこからでも見えるようにしてやった。


「うぉおおおおお、肉だ、肉の山だぞ!」

「食べられる、お腹一杯肉が食べられるぞ!」

「おすな、皇子殿下の前で争ったら肉が食べられなくなるぞ!」

「並べ、もう1度ちゃんと並び直せ!」


 肉の山を見て思わず前に出た連中を、他の平民たちが抑える。

 誰だって他人の失敗のせいで飯抜きにされたくはない。

 ちょうど良かった、領民に内臓の掃除をさせよう。


 バカン辺境伯家の領都近くにはきれいな川が流れている。

 そこから水を引き入れているので、領都はきれいな水に恵まれている。

 その水を使えば、剥ぎ取った内臓を洗って臭みを取る事ができる。


「板を運ぶ仕事の他に、目の前にある肉の内臓を洗う仕事がある。

 見た通り山のようにあるから、仕事が無くなる事はない。

 どちらの仕事も肉の食べ放題だから心配するな」


 俺はここでスレッガー叔父上に耳打ちした。

 直ぐにこの場でバーベキューを始めてもらうのだ。


 領都中から集まって人間全員に肉を食べさせるのだ、いちいち料理などできないから、集まって領民に焼かせる事にした。


「殿下、さすがにフェルス豚はやりすぎです。

 家の家臣が肉ダンジョンで集めたエミューやシープのドロップにしてください」


「残念だが、その辺りの肉は旅の途中で食べ尽くした。

 今は最低でもダチョウかディアになる」


「それで良いですから、これまで1度も世の中に出ていないような肉を、当たり前のように出すのは止めてください!」

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