第3話:思い出

神歴1817年皇歴213年1月16日皇宮後宮のグレイシー内宮

ロジャーの皇子視点


「母上、戻りました」


「おお、ロジャー良く無事に戻ってくれました!」


「表に行っていただけです、何の心配もいりません」


「何を言っているのですか、多くの悪臣がロジャーを狙っているのです。

 表も後宮も、ロジャーを狙う悪臣がウヨウヨといるのです、油断はなりません」


「はい、分かっております、十分気をつけさせていただきます」


 グレイシー母上、前世の記憶がある俺からすれば、孫でもおかしくない若さだ。

 それでも5年も愛情を注いでもらうと本当の母親のような気がしてくる。

 まあ、本当の母親なのだが、う~ん、ほんの少しだけ違和感がある。


「それでどうなりました、婿入りが中止になったりしませんでしたか?」


 母上は俺に残って欲しいのだろうが、それではここと兄上のロクスバラ公爵屋敷を守り切れないと話した。

 兄上に隠居話が出た事など、全てを話して理解してもらった。


「そうですか、ロジャーがそこまで言うのなら仕方のない事なのでしょう。

 昨年イーサンが生まれて、お腹にもう1人宿っていますからね」


 母上は俺が生まれた2年後に弟のイーサンを生んだ。

 俺が毒殺されかけた事で前世の記憶を取り戻し、急いで魔術を使えるようにしていなかったら、イーサンはもちろん兄上も姉上も殺されていた!


 俺がここを出て行く事で守りは薄くなるが、それは俺がオスカー兄上を押しのけてロクスバラ公爵家の当主になっても同じだ。


 男がいつまでも後宮に残る訳にはいかないから、諦めるしかない。

 むしろ早めに出てバカン辺境伯家で目立った方が、敵の狙いが俺に来る。

 毒殺や刺客に関しては薬や魔道具を渡しておけば何とかなる。


「母上、僕は表に行ってスレッガー叔父上に武術の訓練をしてもらってきます」


「まだ5歳に成ったばかりのロジャーが、婿養子に入るために文武の訓練に励まないといけないなんて、せめて後1年、オスカーと同じ6歳までここにいられれば……」


「母上、心配のし過ぎはお腹の子に触ります、心を穏やかにされてください」


 言葉を尽くして母上の心を癒してから、グレイシー内宮の表に行った。

 広大な後宮には信じられないくらい多くの内宮がある。

 その全てに皇帝の正妃と側妃が住んでいるのだから笑ってしまう。


 男子禁制となっている後宮だが、皇子が生まれた妃だけは、皇子の文武を教育するための一角、内宮の表に血のつながった親兄弟だけ入れる。


 まあ、内宮の奥と表を繋ぐ扉は、皇帝直属の護衛侍女が厳重に警備しているから、皇子の血族男子だけでなく皇子自身も、出入りの際は厳しく検査される。


「叔父上、今日もここで鍛錬していた事にしてください」


「殿下、殿下が皇城を抜けだされている事が知られたら、私だけでなくグレイシー妃殿下も厳しい処分が下されるのですよ」


「それは分かっていますが、バカン辺境伯家に婿入りするなら、これまで以上に軍資金と食料を蓄えておかなければいきません」


「殿下、慎重なのはとても素晴らしい事ですが、もう100万人を10年は養えられる食料を蓄えられていますよね?」


「叔父上、僕は皇国の皇子ですよ。

 皇国3000万の民が、何があっても飢えないように、食料を蓄えておく義務があるのです」


「ですがその皇子から辺境伯家に出されたではありませんか。

 辺境伯家は32万人、もうこれ以上蓄える必要はないでしょう?」


「まだ兄上が皇位継承権を持っておられます。

 フレディ殿下と取り巻きは身の回りに気をつけられていますが、俺を上回る悪臣がいつ現れるかもしれません。

 オスカー兄上が皇位を継がれる事になっても良いようにしておくのです」


「はぁ~、しかたありません、見て見ぬふりをしましょう。

 おそれ多い事ですが、オスカー殿下もロジャー殿下も可愛い甥っ子です。

 家臣と使用人には殿下が、殿下がお忍びでダンジョンに行かれると伝えています。

 細心の注意を払って行って来てください」


「ありがとうございます、叔父上」

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