第4話:孤児院
神歴1817年皇歴213年1月16日皇都内孤児院:ロジャー皇子視点
皇城の外縁部、3つの壕と3つの城壁の外側。
4つ目の壕と4つ目の城壁に間にダンジョンの入り口がある。
敵に皇都城壁が破られ、皇城に籠城しなければいけなくなった時に兵糧で困らないように、ダンジョンの入り口が皇城内になるように城が造られている。
噂では、皇城の最奥部、後宮内にもダンジョンの入り口があるという。
おそらく非常時の逃げ道になっているのだろう。
入り口を知っているのは皇帝だけだと思う。
「殿下、お待ちしておりました、先に孤児院のご案内でよろしいですか?」
俺が皇城を抜けだして母上の実家を訪ねると、徒士格の家臣が待っていた。
他にも3人の徒士格家臣と11人の卒族兵がいるが、筆頭家臣が迎えてくれる。
「ああ、孤児院から案内を頼む」
父である皇帝は政務をかえりみず、後宮に籠って子作りに励んでいる。
それを良い事に選帝侯以下の家臣共が好き勝手やるので、皇国民は苦しんでいる。
孤児院にあふれる子供たちがその証拠だ。
孤児院は、表向きは母上が慈愛の心で運営している事になっている。
実際には俺が提案して、将来の戦力とするために資金と食料を用意している。
そしてその資金と食料は、皇子である事を隠してダンジョンで稼いでいるのだ。
「うわぁ~、カラス様だ、カラス様が来てくださった!」
「「「「「うわぁ~」」」」」
孤児院に行くと子供たちが一斉に集まって来た。
僕が来る時には必ず食料を持ってくるからだ。
「これ、これ、カラス様はとても偉い方でお忙しいのだ。
お邪魔をしてはいけない、奥に行って何か仕事を手伝ってきなさい」
孤児院の院長先生が子供たちに注意してくれる。
院長先生は僕の正体を知らないが、皇帝の姻族なのは知っている。
皇帝の側妃の実家、カラス家の隠し子だと思っているのだ。
「これは今日明日の食料になります」
俺がそう言うと、家臣と一緒について来た使用人がベッカリーの肉を渡す。
ベッカリーは皇都ダンジョンにでる小型豚の事だ。
皇都ダンジョンは別名肉ダンジョンと言われる特殊なダンジョンなのだ。
この世界には、弱い人間のために神様が創ってくださったダンジョンがある。
その中でも皇都のダンジョンは、ダンジョンモンスターを倒すと必ず肉がドロップする、特別中の特別なのだ。
「ありがたき幸せでございます、グレイシー殿下に神様のご加護がありますように」
母上が孤児院を運営していると信じている院長が心から神に祈る。
院長はダンジョン神の教えを信じる聖職者だ。
孤児院を任せるにあたって、徹底的に調べて人柄の良い者を選んだ。
この世界には多くの神様がいて、人は自分の種族や職業に応じて信じる神を選ぶ。
ただ、皇国民は、特に皇都に住む民の大半が、ダンジョン神を信心している。
前世の俺は神など信じていなかったが、転生できたので多少は信じるようになった。
「ロジャー殿下がバカン辺境伯家に婿入りする事になって、我が家の幾人かはついて行かなければいけなくなった。
これまでのように頻繁に来られなくなるから、今日は多めに食料を置いて行く。
地下の食料庫に案内してくれ」
「はい、ついて来て下さいませ」
俺は院長の案内で地下の食料庫について行った。
自分が造った地下室なので案内されなくても分かるのだが、それは言えない事だ。
皇都は前世で言うと京都のような気候なので、夏が暑く冬が寒い場所だ。
だが、地上はそうでも、地下を10メートルも掘れば季節に関係なく常に10度前後の温度になっている。
その空気を循環させれば夏は涼しく冬は暖かく過ごせる。
だから地下を普通に使っても、冷蔵庫ほどではないが食料品の保存に適している。
更に魔術で特別な氷室を造ってあるので、氷漬けにした食料を入れておけば、100年は食料を腐らせずに保存できる。
「子供たちが1000人に増えても10年は大丈夫な量の肉を置いて行きます」
「え、そんなたくさん置いて行ってくださるのですか?!」
「はい、皇都にいる孤児はできるだけ集めてください。
ダンジョン神殿の名誉にかけて、孤児を餓死させないようにしてください。
グレイシー妃殿下の名声を高めるように、孤児たちの教育も頼みます」
「ダンジョン神様に仕える聖職者として全力を尽くすと誓います」
「子供たちが1000人を超えるようなら直ぐにカラス家に伝えてください。
直ぐに非常用の食糧を運び込みます」
「ありがとうございます、子供たちになり代わってお礼申し上げます。
グレイシー殿下とカラス家の方々に神様のご加護がありますように」
俺はベッカリー豚のドロップ肉だけでなく、エミューとシープのドロップ肉も大量に置いて行った。
他家の目もあるから、ベッカリー豚のドロップ肉だけにしたかったのだが、量が足らなかったのだ。
モモ肉だけとか前腕肉だけで良ければ幾らでもあるのだが、皇都ではドロップ肉しか渡せない。
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