第8話「手は貸す。だがね、」
──はりきる理由?
きまぐれとか女子学生を前にしてみっともなく見栄を張りたくなったとか、そんな下心がないとは言わないけど正しくはないかな。
きっと、答えはもっと単純だろう。
自分が名指しされることなど滅多にないし、そりゃ浮かれもするさ。
信じられないかもしれないが、期待されることに慣れていない人間なんて得てしてそんなものだよ。
そして、それは正常な反応だと僕は思うんだけどね。
*
「手助けとは、一体……?」
二人はリアの家族捜索の足掛かりを求めてアルバートの教室を訪ねたが、空振りに終わると思った矢先──アルバートは唐突に「一介の魔道士としてなら手助けしてもいい」と言い出した。
素直に受け取るならありがたい申し出だったが、アルバートは先程までの会話からどちらかといえば彼女らの行動には否定的な立場であったのだ。
それが一転して、協力的な態度をみせている。
彼の心変わりには企みとまでは言わぬものの何か裏があるのでは……と、エルナが戸惑い、
すると、アルバートはそんな彼女の心境を見越してか、得心がいくような打算的な言い訳を始めた。
「今からリア君が
アルバートはさらに続け、
「君たちは危うい。冷静なようでいても若さ故に暴走しがちだ。だから、誰かが頭を押さえなくちゃいけない。……さて、どうする? 君たち二人が僕の監督下で無茶をしないと約束出来るなら、僕の〝
「先生なら、それが出来るのですか?」
エルナの問いかけにアルバートは二人を安心させるよう、力強く頷いた。
「僕なら出来る。可能性の話ではなく、断言できる。ただし、条件はあるけどね……これにはリア君の協力が必要だ。何より準備が肝要なんだよ」
「私の協力が……? 準備ってなんなんです……?」
「ま、その辺りはまた明日にでも話そうか。引き留めて悪かったね、今日のところは大人しく帰りなさい。明日の午後、またおいで。教室は開けておくから」
「そんな悠長に構えていては、取り返しがつかなくなるかもしれないのに?」
「……焦る気持ちは分かるよ。だけど、こういう時だからこそ魔道士たるもの冷静でいなければならない。隊でも組織でも個人の相談でも、だ。我々にはそういう役割が常に求められているはずだ」
「それは──」
エルナはアルバートに対して反論を試みようとするが、言葉が続かなかった。
リアはただ、エルナの方を不安げに見つめている。どのような選択であれ、彼女に追従するつもりだろう。
「……分かりました」
結局、エルナはそれだけを答えて退室していく。
そんな彼女の後ろをリアもついていってアルバートに一礼した後、退室する。
引き違い戸を閉めたのはリアだろう。控え目な音だった。
「やれやれ。諦めがいいのか、悪いのか……」
二人の退室後、丸椅子を元の位置に片付けながらアルバートは嘆息をついた。
(これで今日はもう動きようがないだろう。今日のところは、だな。彼女の性格からして不義理をするようなコじゃないし)
もっとも、エルナは聡い娘である。次善策としてあれこれ考えを巡らし、いろいろ情報を集めるくらいはするかもしれない。
逆に被害者のリアは現時点で精神が薄弱としていて、エルナに付き従うだけなのが少し気にかかるが──
「しかし、予断は許さないか……上手いこと誘導しないとな。うっかりすると最悪、寝覚めが悪い事態になりかねない。今の世の中、年頃の女の子には危険がいっぱいだということを他ならぬ本人たちが自覚していないのが困るんだよな……」
アルバートは椅子を戻し終えると、部屋の中央で周囲を見回した。
──忘れ物はなし。今度こそ教室を閉めよう。
*
<続く>
・「〝
「(対象を心象風景にて観察する魔法です。俯瞰視点から接写までズームできます。距離に関する制限はありませんが、生物が対象の場合、気を張られると映像が乱れて途切れます。特定の場所に仕掛けて定点観測も可能。この場合、映像が乱れるなどのデメリットはナシ。ただし、範囲外は観察不可能です。メタ的に言うと定点カメラでズームは出来るけど、という感じ。定点カメラの角度は熟練者なら動かせるかな?)」
「(観察条件について。場所なら場所、人なら人を術者の記憶の中に強く印象付ける必要があります。情報不足の場所や人を対象にするのは不可能。どうにかして対象の情報を知り得て、記憶に焼き付けるのが成功判定の絶対条件です)」
「(ちなみに。前半でジュリアスが〝
・「遠望の水晶球とは」
「(そんな〝
「(また、〝遠望の水晶球〟は通常の魔法道具と違い、宝物扱いです。取引額は高額で価値も一定。同じカテゴリには宝剣とか芸術品とか。そんな感じになっています)」
「(話は逸れますが、換金アイテムの話。魔法の宝物など実用品の価値は一定というのは前述しましたが芸術品は多分、相場は変動しているのではないかと。ちなみに、
作中の銀貨一枚は千円くらい。金貨一枚は一万円くらいの想定です)」
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