第30話「二枚舌 -片手剣技・魔術師潰し-」☆
船長は腰に帯びた
ジュリアスは「いつでもどうぞ」と言わんばかりに杖の末端を片手剣を扱うように握り、両腕を下段で広げて待ち構えていた。
……相対距離は大股で五歩くらいか。
斬りかかるには無視できない移動を
結局は剣士の間合だ。魔術師が
一発必中は可能でも、必倒となるほど威力がある魔術は使えるかどうか──
そんな剣士有利の状況にも関わらず、ジュリアスは余裕の笑みを崩さなかった。
*
──有利だ。間違いなく有利だ。
問題はこいつがどういう風な魔法使いか、だが──
(照明がどうとか言ってたな……光か、炎か……火炎か……?)
前に何処かで誰かが言っていた話を思い出していた。魔法使いも万能ではなく
(その話が本当なら火の玉をとばしたり、火を吹いたりしてくるわけだ……)
だが、それは噂を
「おい。魔法は使わねぇのか……?」
「なんだ? 使ってほしいのか?」
「使わないのか、使えねぇのか。……どっちなんだ?」
言うだけならタダだ。軽く揺さぶりをかけてみる。
魔術師は質問から何か意図を読み取ろうとして、
しかし、何も思い当たらなかったのか、ごまかすように小さく笑った。
「悪いが質問の意味が分からないな。単なる挑発だったか? それとも、意味のある質問だったのか?」
「下で
「……それが?」
「そろそろ魔力切れする頃合いなんじゃねぇのか?」
船長の指摘にジュリアスは一瞬、呆けたような顔を見せる。そして、鼻で笑った。
──失笑だった。
「ああ。魔力切れ、ね……」
「……図星か?」
「そう見えるか?」
魔術師の手にした杖が向くと、至近距離で何度も破裂音が鳴る!
──魔法による
二人を取り巻く水夫らは訳も分からず絶句しているが、直接、相対している者には分かる。当てるつもりがない。
「……魔力切れだって? 魔法使いでもないのにくだらない事を心配してるんだな。そういうからにはお前、魔力がどんなものか知ってるのか? 魔力が何かと問われて答えられるかって話さ。魔力を消費して魔法を使う。魔法を使ったから魔力を失い、消耗する。水や血液のような物質の延長で考えると、そういう認識に
──魔術師が何やら語っているが、心底どうでもいい話だ。
重要なことは話ではなく手の内だ。あの男は余裕をみせる為に何やら乱射したが、それで大方の威力と連射力は把握した。人間一人の突進を押しとどめるほどの威力はない。反応からしても、あれが
(バカな野郎だ……)
あとは
「──おい、お前。
半端な角材を持った水夫に声をかけ、出入り口に
魔術師は特に何も言わず、走り出す水夫の背を目で追っていた。その間、煙草箱を取り出し、煙草を一本取り出して口に
そんなに時間はかからず、水夫が使いを終えて戻ってきた。
火の点いた
「そういやよ……」
魔術師を横に見ながら煙草を口から離して紫煙を吐き出したあと、松明擬きの火を見つめながら呟く。
「思い出したことがある……魔法ってやつはよ、一度にひとつしか唱えられない……本当か?」
聞きはするが、魔術師の方は見ない。
煙草を再び咥えながら視線を赤々と燃える松明擬きの火から外さなかった。
「……詳しいんだな」
魔術師は答える。
「基本的にはその通りだよ。魔術師が唱えられる呪文が一つなら発動する魔法も一つだけ。ただし、補足事項は色々とあるがね。例えば、呪文を詠唱して発動した魔法を再度使う場合、詠唱は必ずしも必要としない。詠唱なしに連発出来るとかな」
「さっきみたいに、か……?」
「そうだな。さっきみたいに、だ」
「……他には?」
「他に? 何を言いたいんだ」
「魔法を再度使う場合、詠唱は必ずしも必要としない……詠唱なしに連発出来る……そう言ったな……?」
「……ほう?」
魔術師の
言葉は交わすが、そちらは見ていないので顔色までは分からない。
「魔法ってやつは一度に一つしか唱えられない──同時には使えない。だが、連発は出来る訳だ。同じ魔法なら理屈は分かる……違う魔法なら──」
……そこで言葉を止めた。
こちらの言わんとしてることが分かったのか、魔術師は忍び笑いをする。魔術師という人種は本質的におせっかいというか教えたがりというか、知識をひけらかすのが好きらしい。例え相手が敵があっても、だ。
「つまり、
──決闘の始まりは
少なくとも
火の点いた松明擬きがくるくると回転しながら魔術師に迫る!
そちらも見ずに放り投げたのだ、不意を打ったに違いない──煙草を吐き捨てて、左手で
魔術師の行動は二つに一つ。避けるか、魔法で迎撃するか、だ。
魔術師は松明擬きを反射的に杖で打ち払い、その時には既に三歩手前。
反応は常人にしては良かったが、とった行動は凡人だ。
魔術師は所詮、魔術師に過ぎない。ここから有り得るとすれば杖を使って反射的な防衛行動だろうが、刃物ではない為に妨害は容易だ。
──その時、ジュリアスは襲いくる松明擬きを、内から外へ杖で打ち払っていた。
目前には左手で柄を押さえこんだ船長が走り込んできている。魔法は間に合わず、弾いた反動を活かして杖を前に突き出すか、打ち振るか……二つに一つだ。その時、ジュリアスは打ち振ることを選択した。
先手を取ったのは確かにジュリアスだが船長の右肩を叩いても勢いは止まらない、駆け足から間合の無い
傷つくことも
その
(何……!?)
手応えがおかしく、刃は壁を
横に薙ぎ払った杖の先端が衣服を
「なんだ……テメエ、何しやがった……?」
一息ついたところで右肩からの鈍痛に顔をしかめる。まだ戦えないほどではないが気になる痛みだった。
「
「魔法障壁だ……?」
右手も使って左手の剣を逆手から順手に持ち替える。指は使えるが腕は使えない。肩はやられた、そう判断する。船長は気付いていないが、木材の軽さで鋼鉄の硬さを持つ物体を強烈に叩きつけられたのだ。無事で済むはずがない。
(突き殺すか……)
喉か、心臓か──
あまり時間はかけられない。負傷した以上、手早く片付けなければ敗色は濃厚だ。相手が壁なら突き崩すに限る。
「ほう……」
魔術師は杖の末端を握り、杖頭を甲板に向ける。下段で両脇を開くように構え、「かかってこいよ」と不敵に待ち受けた。
……短い沈黙からの戦闘再開は合図も言葉も無かった。
走り出す音、荒い呼吸音。繰り出す突きの風切り音は魔術師の寸前を
杖が脇腹にめり込んだのだ。勝負はそれで決した──
「もう少し
*****
<続く>
・「
「(駆け足から間合の無い
「(あ、何の気なしに魔術師にメイジとルビを振っていますが……作中の設定的には正しくないですね、これ……元ネタありきということで見逃してください)」
・「没セリフ」
※以下は船長に聞き流されたジュリアスの熱弁です。
『魔力ってのはな、想念と意志の力だ。心の奥底から無限に湧き出てくるものであり魔力切れなどという概念は通常、有り得ない。それにも関わらず、何故、魔力切れが存在するかといえば……魔法というもの自体が、何時しか! 魔法使いが魔法使いにかけた呪いが、毒として混ざり合ってしまったからだよ』
……これもこれでジュリアスの主観が入っています。念の為。
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