【20回の裏】オールスターゲーム。

7月12日(火)


 MLBのオールスターゲームはこの一戦のみ。この試合に勝った方がワールドシリーズでの先行開催権※が与えられるので「お遊び」ではない。(※この制度は平成28年まででした。作者註)


 沢村は7番指名打者での先発出場。先発投手はア・リーグがLAアンカーズのウェーバー、ナ・リーグはフィラデルフィアのロイ・ホリデイ。


 沢村の最初の打席は3回表。先頭打者。投手はホリデイから左腕のクリス・リードに。沢村は右打席に入った。昨日の活躍もあり満員の観客から歓声が上がる。


 リードは緊張していたのか3球目までは明らかにわかるボール。4球目は「置きに行った」とはとても言えない90マイル(約144km/h)の4シーム。真ん中低めに入ったその軌道をきれいに打ち返す。沢村の打球は高い放物線を描いて左翼席へ。


 球宴初出場、初打席にて先制点となるソロ本塁打。ダグアウトに戻ると皆から祝福される。絶好球を決して見逃さない選球眼の良さは相変わらず素晴らしい。


 ア・リーグは4回にも1点を加えて0対2としたがその裏に4番手のCJウィルセン(TEX)がフィルダーズに逆転弾となる3ラン本塁打を浴びて3対2とひっくり返される。


 そして5回表。再び先頭打者。マウンドにはLAドルフィンズの若手No.1左腕投手クレイトン・ガーショウ。沢村は再び右打席に。1球目の4シームはアウトハイに外れる。球速95マイル(約151km/h)。2球目は真ん中高めの4シーム。やはり95マイルの速球だ。


 沢村は迷うことなく振り抜き、乾いた音を立てた打球は鋭く低い弾道描いて左中間を切り裂く。もう少しコースが低めだったらスタンドに入っていただろう。沢村は二塁でストップ。ただガーショウは引きずることなく後続を抑えて無失点。


 沢村も7回の打順が回って来たところで代打オルドスを出され、彼がそのまま指名打者に。試合は5回と7回に1点ずつ追加したナ・リーグが5対2で勝利した。


 MVPは逆転3ラン本塁打を放ったフィルダーズ。


 鮮烈な成績を残した沢村も会見に応じた。

「とにかく良い球は早めに振って行こうと決めていたので良かったですね。クリスとは何度か対戦してるので、彼がまだ緊張してるうちに打とうと思ってました。結果(本塁打)は出来過ぎでしたね。ガーショウとは初めての対戦でした。注目されてる若手投手の一人だったので光栄でしたね。少し年上ですけどほぼ同年代ですし。やっぱり投げ始めだったのでとにかくファーストストライクを振るつもりだったので、それが良かったですね。」


 オールスターゲームの昂揚こうよう感にかられてなのか、いつにもまして饒舌じょうぜつだった。


 日本人唯一の出場選手については

「日本人選手も25歳くらいからのピーク時に気兼ねなく挑戦できる環境が整えば毎年5、6人は出られると思います。今MLBに在籍する先輩方とお話しすると『俺だってもう少し若い時に行ければ』という方が大半です。なんか上手い解決策があると良いですね。」


オールスター休暇ブレイクの残りの過ごし方については

「せっかくアリゾナまで来たので少し『観光』してから帰ります。」

とのことだった。


会見が終わり、彼がホテルに引き揚げる前に私は彼にどこに行くのか尋ねた。

「セドナです。これまで何度か行ったことがあるんですが、ベンKさんの修行場だったあたりまで行くつもりです。」


「私たちも付いて行って良い?」

 私の申し出に彼は少し苦笑いを浮かべた。

「野球には関係ないですし、面白くも無いと思いますがそれでも良ければ。というかこの後すぐに出発するんですよ。」


 沢村は熊野(ベンK)さんの運転するレンタカーで出発。ハイウェイで2時間ほどなので向こうで仮眠を取り、日の出からパワースポットを回るというのだ。


 春秋のベストシーズンとは異なり観光客もさほど混みあってもなく、突然同行を決断した私たちも難なくレンタカーと宿の手配ができてホッとした。


 そして沢村自身が述べたように本当に普通の観光。「ボルテックス」と呼ばれる4つの「霊場」を1日かけて回った。明日はセントピートに戻って後半戦に備えるという。私たちも気分転換リフレッシュにはなったが、正直今の年齢と普段の運動不足を思い知らされることになった。

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