【21回の表】新たな問題と新たな力と

7月13日(水)


 一日かけて4か所の主要な霊場ボルテックスを回り、十分に英気ならぬ「霊気」を蓄えた。一応自動車で移動したものの、山歩きトレッキングもおおかったため、飯を食ったらすぐに眠気が襲ってきた。

 「ベンKさん、俺はもう寝ますわ。」


「ああ、おやすみ。俺は少し明日の予定を整理するよ。」

ベンKさんは日中あれだけ歩き回ったのに全くこたえてないようだ。なんで野球をやめたんだか。もっとも俺が「足手まとい」にならなければ倍は歩いていたらしい。


 ベッドにもぐりこんで明かりを消すと俺はすーっと眠りに落ちていった。

  

 かくして目を「覚ます」と俺は例の部屋にいた。

 まるで朝寝坊をかました学生のごとく起き上った俺に女神は優し気な声で問いかける。


「勇者よ、あなたが時期に来るのは珍しいですね。。」

 確かにここ2年ほどはシーズンが終わった後で霊気を集めてというパターンではあったな。


「ちなみに俺もなぜこの時期に来ようと思い立ったのか、自分でも良く判っていない。」

俺が正直に告白すると女神もつられたように笑みを浮かべた。

「そうです。私があなたの意識下にここへ来るように呼びかけたのですから。あなたにはお伝えすべきことがあります。」


 女神の説明は長かった。なのでかいつまむと多元世界にバラバラに散って行った「魔王のカケラ」たちがここではない次元の世界で再び一つに集まりつつあるという。それらのカケラは次々とこの世界を通りすぎ別の次元の世界へと向かうが、「器」である胆沢龍司いさわりゅうじの身体を通りぬけていくため、彼の意志に反応して様々な災厄が起こるのだという。


 「まさか『あの』大震災も?」

俺は災厄と聞いてすぐに尋ねた。そう3月に起こった東日本大震災。ただ女神はすぐに否定した。

「いいえ、そうではありません。今回の魔王の『コア」となるのは彼の魂ではないのです。なのでそこまで大きな災厄ものは起こせないでしょう。ただ彼にとってもっとも面白くない存在ものはこの世界で成功するあなたです。なのであなたの不幸と失敗のために多くの力を注ぐことでしょう。もちろん、彼も意識してではなく彼の魂からわきあがる怒り、憎しみ、そねみ、ひがみといった負の感情に対してこの世界を通りすがることによって一時的に彼の中に宿る『魔王のカケラ』が反応するのです。」


 つまり俺の成功を邪魔するために、俺に故障ケガさせたり犯罪や事故に巻き込むってこと?それだけでなくライバルとなる選手に力を与えたり、審判員やマスコミからヘイトを買ったり、同僚選手との人間関係がおかしくなったりするのではないか、ということだ。もちろん、災厄を起こす側に訊いたわけではないのであくまでも想定。……いや、考えてみればシーズン前のGMの判断がおかしかったのもこの影響なのか?


 確かに規模は大きくはないが俺への影響は大きいな。「災厄」と呼ぶにはあまりにもショボ過ぎるが「罰ゲーム」と呼ぶにはあまりにも嫌すぎる。なぜ世界の災厄を一身に集めなきゃならんのだ。


 だがとりあえずもらえるものはもらっておこう。「カケラ」とは言え魔王の攻撃を受けるわけだし、報酬はともあれ「対応策」の一つももらっておかねばやってられない。


「それはなんのつもりですか?」

俺が手を伸ばしたのを女神がいぶかしげに尋ねる。

「いや、あるでしょ?追加報酬とか新しい能力とか。」

女神は俺の反応に苦笑を浮かべつつ穏やかな姿勢は崩さずに答える。

「ありませんよ。あなたにはすでに『魔法編集権』を付与しました。なんなら新しい術式の習得手段もあなたの先導者チューターから与えられているはずです。」

 

 この件はケントにはすでに伝えてあったようで、その対策としてベンKさんを俺につけたというのだ。


7月14日(木)


 今日はセントピートに帰る。帰る途中「女神のお告げ」についてベンKさんに話すと  

「そうか。それなら少しずつ修行を始めるとしよう。……だが山籠もりが主な修行だからどうしたらいいものか。nn7月13日(水)


 一日かけて4か所の主要な霊場ボルテックスを回り、十分に英気ならぬ「霊気」を蓄えた。一応自動車で移動したものの、山歩きトレッキングもおおかったため、飯を食ったらすぐに眠気が襲ってきた。

 「ベンKさん、俺はもう寝ますわ。」


「ああ、おやすみ。俺は少し明日の予定を整理するよ。」

ベンKさんは日中あれだけ歩き回ったのに全くこたえてないようだ。なんで野球をやめたんだか。もっとも俺が「足手まとい」にならなければ倍は歩いていたらしい。


 ベッドにもぐりこんで明かりを消すと俺はすーっと眠りに落ちていった。

  

 かくして目を「覚ます」と俺は例の部屋にいた。

 まるで朝寝坊をかました学生のごとく起き上った俺に女神は優し気な声で問いかける。


「勇者よ、あなたが時期に来るのは珍しいですね。。」

 確かにここ2年ほどはシーズンが終わった後で霊気を集めてというパターンではあったな。


「ちなみに俺もなぜこの時期に来ようと思い立ったのか、自分でも良く判っていない。」

俺が正直に告白すると女神もつられたように笑みを浮かべた。

「そうです。私があなたの意識下にここへ来るように呼びかけたのですから。あなたにはお伝えすべきことがあります。」


 女神の説明は長かった。なのでかいつまむと多元世界にバラバラに散って行った「魔王のカケラ」たちがここではない次元の世界で再び一つに集まりつつあるという。それらのカケラは次々とこの世界を通りすぎ別の次元の世界へと向かうが、「器」である胆沢龍司いさわりゅうじの身体を通りぬけていくため、彼の意志に反応して様々な災厄が起こるのだという。


 「まさか『あの』大震災も?」

俺は災厄と聞いてすぐに尋ねた。そう3月に起こった東日本大震災。ただ女神はすぐに否定した。

「いいえ、そうではありません。今回の魔王の『コア」となるのは彼の魂ではないのです。なのでそこまで大きな災厄ものは起こせないでしょう。ただ彼にとってもっとも面白くない存在ものはこの世界で成功するあなたです。なのであなたの不幸と失敗のために多くの力を注ぐことでしょう。もちろん、彼も意識してではなく彼の魂からわきあがる怒り、憎しみ、そねみ、ひがみといった負の感情に対してこの世界を通りすがることによって一時的に彼の中に宿る『魔王のカケラ』が反応するのです。」


 つまり俺の成功を邪魔するために、俺に故障ケガさせたり犯罪や事故に巻き込むってこと?それだけでなくライバルとなる選手に力を与えたり、審判員やマスコミからヘイトを買ったり、同僚選手との人間関係がおかしくなったりするのではないか、ということだ。もちろん、災厄を起こす側に訊いたわけではないのであくまでも想定。……いや、考えてみればシーズン前のGMの判断がおかしかったのもこの影響なのか?


 確かに規模は大きくはないが俺への影響は大きいな。「災厄」と呼ぶにはあまりにもショボ過ぎるが「罰ゲーム」と呼ぶにはあまりにも嫌すぎる。なぜ世界の災厄を一身に集めなきゃならんのだ。


 だがとりあえずもらえるものはもらっておこう。「カケラ」とは言え魔王の攻撃を受けるわけだし、報酬はともあれ「対応策」の一つももらっておかねばやってられない。


「それはなんのつもりですか?」

俺が手を伸ばしたのを女神がいぶかしげに尋ねる。

「いや、あるでしょ?追加報酬とか新しい能力とか。」

女神は俺の反応に苦笑を浮かべつつ穏やかな姿勢は崩さずに答える。

「ありませんよ。あなたにはすでに『魔法編集権』を付与しました。なんなら新しい術式の習得手段もあなたの先導者チューターから与えられているはずです。」

 

 この件はケントにはすでに伝えてあったようで、その対策としてベンKさんを俺につけたというのだ。


7月14日(木)


 今日はセントピートに帰る。帰る途中「女神のお告げ」についてベンKさんに話すと  

「そうか。それなら少しずつ修行を始めるとしよう。……だが山籠もりが主な修行だからどうしたらいいものか少し考えさせてくれないか。」

確かにフロリダ州には「山」はない。


 ちなみにベンKさんの「魔法」と俺の持つ異世界の魔法との相違点は2つ。一つは「方向性ベクトル」が存在すること。「流れ」が存在するのだ。悪意を含めての意志の流れ、力の流れを認識したり使ったりできる。


 もう一つは力の源泉。俺の魔法は自分の持つ「魔力」を使う。一方ベンKさんの術は「神仏」から力を借りる。ただベンKさんの場合は「グレートスピリッツ」という自然そのものを象った神の力。もちろん無尽蔵に使えるわけではないそうだが。


 もしかして俺が「魔力切れ」 を起こしても「補助動力」として使えたりする?これはやるしかないな。


「まずは『気の流れ』を見極めるところから始めよう。」

「いや、俺にはベンKさんの気の流れは見えるよ。」

だから本塁打ダービーで優勝できたわけだし。


「それは俺がわざと見せているからだ。……とりあえず『悪意』の流れから見えるようにしよう。お前には『鑑定魔法スキル』があるはず。俺が教えるからそれにあわせて使ってみるといい。」


 こうして野球の練習以外にも「修行」が加わることになる。


 


 


 

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