【18回の裏】星に願いを。

7月4日(月)【小原由香ダルトン】


 沢村の球宴出場決定に日本中が沸いた。日本にいるスタッフ(亜美さんを取材してる子ね)からニュース映像を送ってもらって確認する。球場のロッカールーム内の取材ではホームランダービーの参加招請が正式に届いたらしく早いうちに出場意向を発表の予定だ。


 ちなみのこのミネソタ・トワイライツには今季、日本から加入した西丘剛選手がいる。沢村とは北京五輪の時にともに日本代表だった。沢村の球宴出場決定と久々の「日本人対決」ということで日本からの取材陣は盛り上がっていた。


 ホーム練習の時間、西丘が打撃練習を終えたところに沢村が挨拶に。五輪以来の再会。

「うわぁ、健ちゃん身体太くなったな。北京の時はヒョロヒョロやったもんな。向こうが透けて見えてたもん。」

「透けるかい!……なわけないじゃないですか。」


 西丘もオープン戦は好調だったがシーズンに入って調子も落とし、打率も2割ギリギリ。日本人「内野手」はなかなか定着が難しいのが現実だ。その原因は屈強なアメリカ人選手との体格差とも言われている。かく言う沢村も内野手としての起用もあるが基本は外野手だ。


 沢村は5番左翼手、西丘は9番遊撃手でそれぞれ先発出場。沢村は2打数無安打2四球。二死三塁二塁の見せ場はあったがミネソタ先発投手のダニングはあっさりと申告敬遠。一方の西丘は2点適時打タイムリーヒットを放って「先輩」の意地を見せた。試合は7対0でミネソタが勝利。本塁打はヤーナーズのグレンダーソンが23号、クリーブランドのアスドバル・カブレロが22号で本塁打王争いに名乗りを挙げた。


 7月5日(火)


 試合前に沢村はホームランダービーへの参戦を正式に表明。参加者は両リーグ合わせて8人。非常に名誉なことである。個人的には6年前に当時15歳の沢村がマイアミで開催されたアマチュアのホームランダービーの大会に出場した時に居合わせたのが彼との最初の遭遇だった。あの時も金属バットで150mクラスの本塁打を飛ばしていたことを思い出す。


 沢村は4番左翼手。西丘も9番遊撃手でともに先発出場。ただ沢村は私の思い出ほどピリッとはせずに連日の無安打。チームも3対2と惜敗。


 ヤーナーズのグレンダーソンが24,25号本塁打。


7月6日(水)


 沢村は休養のために先発落ちでベンチスタート。翌日に先発登板を控え(しかも相手がヤーナーズとあって)ての措置だ。本人は口にしないが日本から連日球宴出場決定のお祝いの電話対応のせいかもしれない。時差も考えないとはどうかと思うが、さすがに相手はスポンサー企業だけあって断りづらいのもあるだろう。


 7回表4対5と1点リード、二死三塁一塁の場面。代打で呼ばれる。ミネソタは右投手のスオルジーをあきらめ左投手のミラレスを投入。右打席に移った沢村に対してフルカウントからの6球目真ん中高めに行ってしまった失投を沢村が捉え、センター方向への29号3ラン本塁打。ようやく球宴出場決定以来の祝砲ホームランをはなった。

 

7月7日(木)


 オールスターブレイク前の最後の対戦カードである。ヤーナーズスタジアムでの4連戦。ヤーナーズの広報の企画で本塁打王争いを繰り広げているグレンダーソン、テシェイラとの直接対決が実現した。日本人としては「マジで胸熱」と言うべきか。


 本塁打の話を向けられると

「神頼みってわけにはいきませんね。今日は七夕なんで、『星に願いを。』と言ったとこですかねぇ。」

沢村的にはうまいことを言ったつもりだったが米国の記者たちに同じことを説明するのに四苦八苦していた。「七夕」のくだりがイマイチ伝わらなかったようだ。


 球宴前の最後の登板ということもあり沢村(右投げ)はスピードが乗った4シームを軸に左右に鋭く大きく曲がる2シームとスライダー、落差の大きい縦スラを織り交ぜながらの気合の入った投球。


 とはいえ初球の外角高めの160km/hの4シームを先頭打者のジーカーにセンターに弾き返される。これが彼の通算2998安打目。球審が御年65歳のカーンズ。予想通りのいびつなストライクゾーンと誤審に悩まされながらも凡打の山を築いていく。


 6回にカノンのソロ本塁打を浴びたものの8回を6安打3四球1失点8奪三振と

ヤーナーズの重量打線を相手に上々の出来。1対5でチームの勝利に貢献。8勝目をマークした。これで球宴出場者に欠員が出れば投手としても追加招集される可能性も出てきた。


 そしてバチスカーフが29号本塁打、ついに沢村に追いつく。


7月8日(金)


 ニューヨークは朝から雨。早々に延期(予定は9月22)日が決定。

沢村は午前中はホテルのプールとジムで疲れをぬくための軽めの調整。ニューヨークの5つ星ホテルのセミスイートルームでルームサービスでランチのようだ。


「宿泊費は出るけど食費は自腹なんですよね。なので(球場の)クラブハウスで食べるのがいちばんですよ。」

 ロビーに降りてきて取材に答える沢村にケチ臭いこと言うなよ、稼いでるくせにという空気が漂う。

「あ、ヤーナーズの飯は美味いですよ。多分これまでの遠征先の中では断トツですね。これはチームの財政力の差なんですかねぇ。」


 ちなみにこのあと「投手会(奥様コミ)」でニューヨーク近代美術館と夕食会だそうだ。


ア・リーグ本塁打

 

沢村(TB) 29

バチスカーフ(TOR)29

テシェイラ(NYY)25

グレンダーソン(NYY)25


今季の沢村健の成績(7月8日現在)


打撃

(左)打席174 打数142 安打55 単打14 二塁打14 三塁打4 本塁打23 

打点57 四球29(敬遠8死球2)犠打1(犠飛1)敵失1

(右)打席55 打数47 安打19 単打9 二塁打4 三塁打1 本塁打6 打点23 四球8(敬遠2死球1)


合計 打席229 打数189 安打74 単打23 二塁打18 三塁打5 本塁打29 

打点80 四球35(死球3敬遠10)犠打1(犠飛1)盗塁8 敵失1

打率.397 出塁率.496 長打率1.005 OPS1.501


投手

(左)試合7(先発7)53回 自責点8 防御率1.36 5勝0敗 QS7 被安打30 四球11 三振42 WHIP 0.7736(とても良い)

(右)試合7(先発7)47回 自責点17 防御率3.26 3勝3敗 QS5 被安打43 四球9 三振39 WHIP1.106(良い) 





 

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