【17回の表】初めての乱闘。

6月20日(月)


 ウィスコンシン州ミルウォーキー。ナ・リーグ中地区2位のブルーウインズの本拠地である。日本人には聞きなれない街だがシカゴの近く(車で2時間くらい)のミシガン湖(五大湖の一つ)湖畔にある(アメリカでは)古い街である。


ナ・リーグとの交流戦インターリーグは毎シーズン全チームと組まれることはないので俺は初めての対戦である。


 所属選手としては本塁打王を獲ったこともあるプリンス・フィールディング。トリプルスリーを狙える走攻守三拍子そろったライアン・ブローン。「変人」と言われる右腕のエース、ザック・グレンジャー、だ。日本人選手は元横浜の西藤隆さいとうたかしさんがいるが現在AAAで調整中である。俺の「中の人」が同世代なのでちょっと残念。


 「交流戦」なので同地区のチームを相手にするよりは和やかな雰囲気である。

練習場でもあちこちで挨拶を交わす様子が。もちろんNPBよりも選手の所属チームがはるかに流動的なので「お前ここにおったんか?」的な再会も多いようだ。


 俺はプリンス氏に話しかけられた。

「健、オールスターゲーム、ほぼ当確じゃないか?」

「そうですね、できればトップで行きたいですね。」

いきなりファーストネーム呼びかよとも思ったが、彼的には俺が日本人だからということもあったようだ。


「俺も5歳の時に1年だけ日本に住んでたことがあるんよ。ほとんど覚えてねーけど。」

そう言えば彼の父はNPBでブレイクしMPBに返り咲いた選手だ。ただそれは平成元年のことで俺が生まれる1年前のことだ。でもなんか嬉しいよね。思わず聞いてしまった。


「日本語でなにか憶えてる言葉とかあります?」

「『オオキニ』、サンキューのことだって親父に教わったよ。」

それ関西弁……。確かに親父さんがいたのは関西の球団だったけど。それがおりこみ済みの日本人記者たちに大ウケ。もっともこれは西藤さんの仕込みだったらしい。くそ、おいしいトコ全部持ってかれたわ。


 俺は5番二塁手での先発。指名打者制のないナ・リーグ本拠地での交流戦のため左翼をジョニーに譲ってのことだ。先発投手のナヴァロンが左腕だったこともある。


 初回二死二塁から追加点となる適時二塁打。ただ7回に死球を受ける。コースは予見してたけど足元だったので避けきれず。チームも4対8で勝利。


6月21日(火) 


 今日の相手先発はザック・グレンジャー。僚友からサインを頼まれても「面倒くさい」と断ったとかいろんなエピソードを持つ「変人」キャラとして知られている。ただ「社会不安障害」を患っているらしく周りも気を遣わざるを得ないらしい。


 俺は3番二塁手での先発出場。まだ外野守備の方が気は楽かもしれない。ところが初回二死無走者で、1B1Sからの3球目、149km/hの4シームがインコース過ぎて俺の大腿部ももに。状況シチュエーションから言って故意わざとではないことはわかるが、さすがにチームの主砲に「連日」死球ではもめないはずもない。


 両軍ベンチから飛び出しての軽いもみ合いに。もちろん同じリーグですらない相手だけに「怒り心頭」とまではいかないが。さすがに両軍ともすぐに引っ込んだが。俺にとってはプロ初の「乱闘」である。この日の先発のヘル吉は

「僕も報復しろって言われるかな?」

とドキドキしてる模様。いや、おな地区じゃねーし、それはないやろ。


 ただ試合は5対1で敗戦。


6月22日(水)


 ジョニーが休養のため左翼手復帰。天気は雨のため球場の屋根が閉まる。ってここドーム球場やったんだ。日本だとドーム球場は必ず「ドーム」をつけるんだがアメリカではあえてつけることがないんで気づかなかった。

 

 俺は5回先頭打者で左前安打で出塁すると今季6個目の盗塁。

よほど「走れない」と思われているのか敵地にもかかわらず笑いとともに拍手が出た。試合は3対6で勝利。


 ちなみにバチスカーフが22号本塁打。


次の遠征先のテキサス州ヒューストンへの移動だ。明日は「移動日」のための休み。

「夏のヒューストンは(暑さが)ヤバいよなぁ。」

誰かがつぶやいた。


6月23日(木)


 早朝、ベッド脇の電話が鳴り響く。モーニングコールなんて頼んでねーぞ。

受話器を取るとBJだった。

「おい、健。起きろよ。ゴルフ行くぞ。」

めんどくせー。

「あの、昨日彼女と遅くまで『電話』してたんで無理です。」

「ああ。のろけなら後で聞いてやるから、さっさと着替えて降りてこい。」

聞いてねーな。こいつらなぜゴルフが絡むと融通が利かないのか。


 予定では午前中いっぱい寝て午後からホテルのジムとプールで軽く汗を流すはずだったのに。ロビーまで降りるとすでにコーチも含めてほぼ勢ぞろい。いないの監督ぐらいじゃね。


 ア・リーグ本塁打(23日現在)


沢村(TB) 25

バチスカーフ(TOR) 22

グレンダーソン(NYY) 21

テイシエラ(NYY) 21


今季の沢村健の成績


打撃

(左)打席153 打数123 安打51 単打12 二塁打14 三塁打4 本塁打21 

打点52 四球27(敬遠6死球2)犠打1(犠飛1)敵失1

(右)打席40 打数36 安打13 単打6 二塁打2 三塁打1 本塁打4 打点13 四球4(死球1)


合計 打席193 打数159 安打64 単打18 二塁打16 三塁打5 本塁打25 

打点65 四球31(死球3敬遠6)犠打1(犠飛1)盗塁6 敵失1

打率.403 出塁率.497 長打率1.038 OPS1.535


投手

(左)試合6(先発6)45回 自責点7 防御率1.40 4勝0敗 QS6 被安打25 四球9 三振37 WHIP 0.7556(とても良い)

(右)試合5(先発5)33回 自責点12 防御率3.27 1勝3敗 QS4 被安打30 四球6 三振26 WHIP1.091(良い) 





 

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