【16回の表】延長戦はつらい。

6月12日(日)


 延長戦ほどかったるいものはない。


 MLBでは「引き分け」の制度はなくどちらが勝つまで試合を続ける。白黒をはっきりとつけたがるアメリカ人の精神性の表れなのかもしれない。ただこの試合時間の長さが若年層の「野球離れ」を引き起こしているともいえる。


 選手にとっても同様で、特にデーゲームの前日のナイトゲームの延長戦はかなりしんどい。昨日は夜11時半まで試合がありホテルにつくのは当然0時過ぎ。しかも朝起きて移動の準備を終え、午前11時には球場入りというパターンだ。それでもビジターチームなら11時だがホームチームなら球場入りは9時だ。(グラウンド練習の都合)。深夜0時てっぺん超えをしていないだけ今日はまだマシかもしれんが。


 なので正直延長戦になりそうな時に俺に打順が回ってきたら、残りの魔力を全部使ってでも打ちにいく。


 みなしんどそうな顔をしているので記者さんたちも選手たちを遠巻きに見ている。

これがナイトゲームならまずまず回復してるのだが。


「健、……お前元気そうだな。」

ジョニーが死にそうな顔で俺に言う。俺は自動回復魔法で回復が済んでいるせいもあるが。

「そりゃまだ『若い』からね。みんなが疲れてんのは明日の休みが不意パーになったからじゃない。」

「まあな。そんなに元気ならお前が守備に就けよ。」

俺は指名打者での出場の予定。それは明日の試合の先発投手だからだ。


 本来なら長期遠征ロードが今日で終わり、明日は移動日(休養日)のはずだった。だが5月のデトロイト戦の雨天順延試合のために潰れるという残念なおまけつきのため皆渋い顔をしているのだ。


ベンチコーチのデーブが俺に声をかける。

「健、今日は相手先発が左腕のマーカスだけどどうする?お前左投手苦手だろ?楽な打順で打つか?」

 確かに左腕が相手なら大幅に打線がいじられるだろう。そこに打撃コーチのデレクが口を挟む。

「おいおい。健は右打ちの成績は左に比べりゃ低いけど3割5分はあるぞ。健の代わりはいないだろうが。


 マーカスは昨季10勝を挙げた新鋭で俺とドラフト同期でボルティモアの1巡目(全体4位)指名である。大学組は俺と同期の選手がどんどん出始めている。


 ただ初回からレイザース打線がつながり初回に3得点。俺も2巡目の打席に3球目の4シームを左翼席への22号3ラン本塁打。右打席でも打てるんです。マーカスは次のドンゴをストレートの四球で歩かせてノックアウト。6対11と乱打戦を制して勝ち越し。


 気分よく……気が重いシカゴ戦へと向かった。バチスカーフ(TOR)が21号(2位)]


6月13日(月)


 雨で流れた5月25日の代理日程である。その時も俺が投げるはずだったので予定通り。今季のデトロイトには日本人選手はいない。今日は右投げの日。


 相手はシェーザーやバートランダーではなく左腕のコーラ。 もっとも一番の「敵」は遠征疲れのチームメイトかもしれない。


 そして当面の的は相手の主砲ミゲル・カブレロ。長打力も打率もある大打者である。最初の打席は3B2Sからのゾーン一杯のインハイを見送られての四球。さすが大打者、球審もそこはストライクとらないな。


 2巡目は3回、低めに左右に散らしたがインローへの縦スラを狙い打たれての二塁打。二死無走者で良かった。


 3巡目は5回、二死二塁なので申告敬遠。ベンチの指示なんだからね。当然観客からブーイングの嵐。ただつづく5番ビクター・マルテネスにタイムリーを打たれる。


 4巡目は7回、一死無走者で振りかぶっての対戦。決め球は3B2Sから2巡目で打たれた全く同じコースに今回は縦スラではなくSFF。打ち損じての2ゴロに打ち取る。ちょっとドヤりたかったが良く考えたら2打数1安打2四球なのでどう考えても今回の対戦は俺の敗色の方が濃い。


 8回表に味方がようやく1点とって1対1になって俺はここでお役御免。チームは延長10回でサヨナラ負けしたものの俺は8回1失点で勝ち負け無し。価値が付かなかったことの悔しさより安堵の方が強かった。


 ……うん、これで やっと家に帰れる。


6月14(火)


 さすがに時間ギリギリまで寝ていた。やっぱり自分の家は良い。言うて2か月くらいしか住んでないけどね。


熊野ベンケーさんに起こされる。

「健、さすがに起きた方が良い。」

身体の疲れよりも精神的消耗の方が大きい。


 今日からボストンとの3連戦。松阪さんは右ひじのトミージョン手術のため入院中。丘島さん、多澤さんはマイナーで調整中と日本人選手がいない状況。


 試合前、先月の月間MVP(投手部門)と月間新人王のW受賞したヘル吉の表彰式が試合前に行われた。……今さら感がひどいな。これまでホームに帰れなかったからしゃーない。


 相手先発はナックルボーラーのウオークフィールド。俺も昨季、彼にナックルの握りを教えてもらったことがある。最初は「キミが僕に時速100マイルの速球を投げる方法を教えてくれたらね」とやんわりと断られた。きっとからかわれていると思ったのだろう。俺が大学野球で男子選手相手に挑戦する亜美のことを説明して彼女のために教えて欲しいと頼むと快く教えてくれた。


  ただ「女の子には僕のように長いイニングを投げるのは無理だと思う。ナックルは驚くほど握力を消耗するからね。」という忠告も。


 ウオークフィールドは7回2失点と素晴らしい出来だったがフィールズがそれをさらに上回る出来で完封勝利だった。


今季の沢村健の成績


打撃

(左)打席130 打数105 安打46 単打11 二塁打13 三塁打4 本塁打18 打点48 四球23(敬遠6)犠打1(犠飛1)

(右)打席35 打数31 安打12 単打6 二塁打1 三塁打1 本塁打4 打点12 四球4(死球1)


合計 打席165 打数136 安打58 単打17 二塁打14 三塁打5 本塁打22 打点55 四球28(死球1敬遠6)犠打1(犠飛1)盗塁5

打率.426 出塁率.521 長打率1.088 OPS1.609


投手

(左)試合5(先発5)36回 自責点7 防御率1.75 3勝0敗 QS5 被安打23 四球7 三振30 WHIP 0.8333(とても良い)

(右)試合5(先発5)33回 自責点12 防御率3.27 1勝3敗 QS4 被安打30 四球6 三振26 WHIP1.091(良い) 


 


 







 

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