【15回の裏】ドラフト会議

6月8日(水)【小原由香ダルトン】


 今日まで3日にかけて行われたMLBドラフトが終わる。日本だと「会議」がつくのだけど、日本とは違い「完全ウエーバー制」なので指名が競合して「くじ引き」というものがない。


 そしてFAで選手を引き抜くとその選手のタイプに応じて1巡目や2巡目の指名権が譲渡される。そして昨年のドラフト1巡目で指名した選手と契約できなかった場合にも補償として1巡目のあとに指名権が与えられる。そのため1巡目と2巡目の間に「1巡目補足指名(C-1)」という指名権が設けられている。


 NPBの「人的補償」が現役選手から指名されるのと違い、MLBでは指名権で補償されるというわけだ。なのでドラフト1巡目(1位)が同球団で複数存在することになる。だから何巡目で指名されたかよりも通算(全体)で何番目に指名されたかが重要になるのだ。


 全体1位はピッツバーグ・ペイトリオッツが大学生右腕投手No.1の呼び声高いゲリット・クールを指名。彼は沢村と同じ年のドラフトでNYヤーナーズに1巡目指名されていたが当時は契約には至らなかった。


 日本と違ってアメリカでは大学の場合「在学中」でも指名されるのだ。(彼も3年生である)。なので大学「中退」を選ぶ選手も多い。ただすべての指名選手がメジャーで成功するとは限らず、引退してただの大学中退者になってしまう可能性もあるわけでこれも社会問題になっているのだ。


 有力選手としては全体3位にアリゾナ・ダイヤモンズがクールと同じUCLAのトレバー・バウマン(右腕投手)を指名している。全体6位のアンソニー・レンダン(内野手)、8位のフランシス・リンドーラ(内野手)などなど。将来MLBを背負って立つ逸材が目白押しだ。


 レイザースに関していえば全体52位で指名された高校生左腕投手のブレイク・スメルが面白いと思った。指名後のインタビューで堂々と言い放ったのだ。

「沢村は高卒1年目でデビューしている。なので俺も(1年目からメジャーで)行けると思う。」


 いやいや、あなたまだ「線が細い」って。沢村も当時身体が出来ていなかったとはいえ、高校時代にはすでにナショナルチームで活躍していましたが、と教えてあげたいところではあるが、そういう「俺様気質」は投手にとっては有用なものなので「素材」としては頼もしい限りではある。


 6月9日(木)


 ボルティモア・オーソドックスとの対戦のために訪れたメリーランド州のボルティモア。


 沢村は午前中はたっぷりと睡眠をとり、午後は地元の大学のプールを借りて「疲れ抜き」の水泳。夕方からレストランの一室を借りての「記者会見」。とは半分は本音で、もう半分は記者の「懇親会」である。


 「植原さんにご紹介いただいたお店なんで、明日の試合の時にはお礼を言ってくださいね。」


 「記者会見」と言ってもオールスターゲームの沢村への投票を日本のファンに呼びかけるものだ。まだ投票期間が始まって2週間ほどだが彼は「指名打者」部門でボストン・レッドアックスのデビッド・オルディスについで僅差での2位。


 やはり昨季本塁打王バチスカーフの20本を抑えての本塁打争いダービートップなのが効いているのだろう。今季はヰチローさえも出場圏外な投票状況だけに日本のファンには「新たな」英雄が求められているのも確かだ。


6月10日(金)


 長期遠征ロードの最後のカードがボルティモアとの3連戦。とはいえ、先日の雨天順延となったシカゴ・ホワイトアックス戦が13日に設定されたのでそれが最後に。さすがにコンディションを保つのが難しいのか、主力は入れ替わりで休養を取る。


 沢村はその休養先発落ち。ただ若さゆえかその「回復力」には目を見張るものがある。ちなみに私が三十路に入って最初に気づいた老いの兆候は「回復力」の低下だ。もっとも母にそれを言うと「若いくせに」と怒られるが。


 代打の準備はしていたとはいえ、先発のエリクソンがぱっとせず序盤に5失点。そのまま出番なしでチームも7-0で敗北。


 グレンダーソン(NYY)が19号本塁打(3位)。


6月11日(土)


 今日は植原への表敬訪問。この遠征で沢村はこれまではヰチロー、高梁と日本人選手が所属する球団と連戦している。そして最後も日本人対決である。植原も久しぶりの大所帯の報道陣に苦笑交じりにのってくる。


「なんや、高梁ヒサから土産とか預かっとらんのか?アイツも気ぃ効かんやっちゃなぁ。」

「いや、アメリカほど土産物に地方色がない国も珍しいですって。せいぜいペナントやら絵葉書くらいでしょ。」

「……昭和か。」

もちろん双方わかったうえでのボケツッコミなのだが報道陣的には非常に助かる。


 沢村の3番左翼手で先発復帰。相手投手はエースの右腕ガスター。沢村は対戦機会が多、苦手とはしていない。5回の3巡目の打席には外へ抜ける2シームを左翼線へうまく流して適時二塁打とお得意様キラーぶりを発揮。


 試合は延長戦までもつれこみ11回表の6巡目の打席で二塁にゾルディストを置いてグレッグスから右前へのタイムリーヒットで勝ち越し点。6対8での勝利に貢献した。

植原は10回に登板したが沢村との対決はなかった。


テシェイラ(NYY)が19号本塁打で僚友のグレンダーソンと3位にならんだ。


 今季の沢村健の成績


打撃

(左)打席124 打数100 安打45 単打11 二塁打12 三塁打4 本塁打18 打点48 四球22(敬遠6)犠打1(犠飛1)

(右)打席32 打数28 安打10 単打5 二塁打1 三塁打1 本塁打3 打点9 四球4(死球1)


合計 打席156 打数128 安打55 単打16 二塁打13 三塁打5 本塁打21 打点52 四球27(死球1敬遠6)犠打1(犠飛1)盗塁5

打率.430 出塁率.526 長打率1.102 OPS1.627


投手

(左)試合5(先発5)36回 自責点7 防御率1.75 3勝0敗 QS5 被安打23 四球7 三振30 WHIP 0.8333(とても良い)

(右)試合4(先発4)25回 自責点11 防御率3.96 1勝3敗 QS3 被安打23 四球4 三振18 WHIP0.8800(とても良い) 

 




 







 

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