【8回の裏】彼と私の「開幕戦」。

【松崎亜美】


4月1日(金)


 震災(とりわけ原発事故)の影響で日本のプロ野球の開幕は4月12日へとずれ込んだ。日本各地の大学野球部の春季リーグ戦は東北地方を除く各地で予定通りに開催されることになった。


 あまりにも大きな災害のために、悲しみにうちひしがれる


 もちろん昼間の試合が主なのでプロ野球よりも電力供給の事情に左右されないのも事実だがホッとした。私の所属するつくば大学硬式野球部でも春季リーグ戦のベンチ入りメンバーが発表され、私も無事に「一軍」登録に。後輩たちからどよめきが上がる。正直言って私の選出を「ひいき」だとか「女子だから特別扱い」とか言う声は陰口としてはずいぶん大きい。


 だからこそパワーアップや投手としてのトレーニングの結果を出していけるといいな。……いや、出さなければならない。


 健のメジャーリーグへの昇格も決まった。彼もマイナーリーグで圧倒的な実力で昇格を自らつかみとった。私だって負けてはいない。


4月10日(日)


 首都大学リーグが開幕。初戦は帝教大学戦。私は1番指名打者での出場。4打数2安打1四球盗塁1。リードオフ「ウーマン」としては合格ラインだと思うけどチームは1-2で敗戦。


4月11日(月)


 2戦目も同じ1番指名打者。3打数1安打1四球。チームは0-1で負けて早々に勝ち点を失う。ボールはしっかりと見えてるしコンタクトもできている。ただ単純に女性の非力さ「だけ」で長打になりにくいだけなのだ。


4月17日(日)


 健の今季メジャー初登板は完封勝利だった。MLBでは球数が100球という基本的な「縛り」があり完封なら+20球程度は認められる。長いイニングを投げるコツはとにかく「四球」を出さないこと。


 今日は六大学の早生田大学との練習試合。相手チームの副主将を務める祐天寺選手は健と中高同じチームだった。


 試合は残念ながら1対4でうちが敗れたが私は先発して3打数1安打。そして中継ぎ投手として1イニングを投げた。スローカーブと4シーム、そしてナックルで3三振。天下の早大を相手がデビュー戦で上々だ。特に両サイドの低めに決まるナックルに相手ベンチは騒然としていた。ナックルは明らかにほかの変化球とは投球フォームが異なる。自信をもって見逃したらストライクゾーンをかすめるのだから。


 試合後祐天寺君が近づいてきた。挨拶を交わした後「あのナックルはコースを狙って投げてるんですか?」と聞かれる。

「いえいえ、さすがに狙っていませんよ。それができたら大変ですよね?」

とごまかす。さすがに魔法制御とはいえない。ちなみに魔法はボールの軌道に直接作用するんじゃなくて私の投球フォームを制御しているのだ。


「投手挑戦は今年からだそうですけど、とてもそうは見えないほどフォームがきれいに一定してましたね。流石は世界一の女子選手ですね。」

褒められてしまった。あとは一緒に写真撮影まで。女子が少ない世界だからどのチームと対戦しても写真撮影は頼まれる。なので試合とはいえ、化粧がまったく手抜きできないのが困りどころ。ナチュラルメイクって難しいんですよ。


【小原由香ダルトン】


4月23日(土)


 昨季の本塁打王を巡って争った二人の対決ということで。トロントの本拠地フォージャー・センターは開閉式ドームだがまだ寒いため屋根は閉じている。それでも温度設定が20℃なので私にとっては少し肌寒い。


 沢村は3番左翼手での出場。デモンズもケガから戦線復帰。だが今日の主役はトロントの主砲バチスカーフ。本塁打2発(6号、7号)と大当たり。一方の沢村は快音なし。チームはレイザースが4対6で勝利した。

「チームの勝利が目的なんで。今日はジョニー(デモンズ)の復帰戦でしたし自前で祝砲(4号本塁打)なんでかっこよかったと思いますよ。」


4月24日(日)


 朝から沢村がチームのバスに荷物を積み込んでいる。これはチームの「ドリンク当番」の仕事だ。エリクソン投手と手分けしての作業だそう。主に移動中のバスや飛行機内で選手が消費する飲み物を手配するのだ。ビールが多いそうだがなんでも良いwというわけでもなく、一人一人好む銘柄が違ったり冷えたものを好む人も常温を好む人もいたりと大変だ。


 試合は3番指名打者で先発出場。相手先発は左腕のリッキー・ロメオ。トロントの左のエースだ。右打者が得意な投手で右打者から見て外に逃げるように落ちる癖の強いチェンジアップは攻略が難しい。沢村は1巡目の打席でそのチェンジアップを2球見送り、インハイへの4シームをたたいた。打球はレフトスタンドへの6号2ラン本塁打。


 ただあとは4シームを投げてこなかった。2打席連続のショートゴロ。首をかしげていたことからチェンジアップだとわかって打ったのだろう。


 9回の4巡目の打席は3番手の右腕フランチェスコ。148km/hの真ん中やや低めの4シームをバチスカーフが守るライト前へ運ぶヒット。


 なんと初回の沢村の本塁打が決勝点になる0対2でレイザースが勝利。ついに11勝11敗の5割に星勘定を戻したのだ。一方バチスカーフは本塁打無し。


本塁打王争いについて沢村は「まだシーズンがはじまったばかりですし、とりあえず(勝敗を)5割トントンにできたのでここから巻き返しをはかりたいです。」と直接の言及は避けた。


  沢村健の今季の成績。


打撃

(左)打席29 打数25 安打11 単打3 二塁打3 三塁打1 本塁打4 打点11 四球4(敬遠1)

(右)打席11 打数10 安打4 単打1 三塁打1 本塁打2 打点7 四球1(死球1)


合計 打席40 打数35 安打15 単打4 二塁打3 三塁打2 本塁打6 打点18

四球5(死球1敬遠1)

打率.429 出塁率.500 長打率1.143 OPS1.643


投手

(左)試合1(先発1)9回 失点0 防御率0.00 1勝0敗 QS1 被安打5 四球1 三振10 WHIP 0.667(非常に良い)

(右)試合1(先発1)6回 失点3 防御率4.50 0勝1敗 QS1 被安打5 四球2

三振6 WHIP1.167(良い)


合計 試合2(先2)15回 自責点3 防御率1.80 1勝1敗 QS2 被安打10 四球3

三振16 WHIP0.933(とても良い)


 


 

 







 


 

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