【8回の表】好不調の波間と俺の野望。

4月17日(日)


 前日の試合が「完投」だったため「休養日」として先発落ち。ところがジョニー(デモンズ)が4回に負傷退場したために急遽きゅうきょ途中出場するはめに。


 「ここはやっぱりお前に託すのが一番だと思うんだよ。」

 半分は嫌がらせに近いんだけど。そんなドヤ顔で言わんでください。日本人はおだてられると弱いんですよ。日本を離れるまでは俺くらい日本人離れした日本人はいないと思っていたが、いざ日本を離れてみれば自分が日本人以外の何者でもないということを思い知らされることは多い。


 とはいえ「豚もおだてりゃ木に登る」とはいかずノーヒットに終わり、連勝ストップ。


4月18日(月)


 今日からシカゴ・ホワイトアックスを本拠地に迎えた4連戦。前回の対戦カードでは3連敗スイープを喫している。


 俺は3番左翼手で先発出場。初回一死走者二塁。先発右腕エドウィン・ジョンソンの2球目はど真中へのチェンジアップ。4シームと一切変わらない素晴らしい「腕の振り」でさぞカウントを取る自信のある一球なのだろう。「予見」の神眼を持つ俺以外にならね。放った打球はライトスタンドへの4号2ラン本塁打。


 エースのブライスの8回無失点の好投もあり5対0で快勝。


4月20日(水)


 今日は昨日と同じく3番三塁手で先発出場。「ユーティリティ」な起用は良いんだけど、これだけ日替わりでころころとポジションを変えられるとさすがに精神的に疲れる。守備の緊張感が半端ないんですが。


 相手先発はフィリップ・ハーバー。デビュー7年目の今季から先発ローテーション入りをつかんだ苦労人だ。まあドラフト1位(全体3位)なのでさすがに「雑草」とは言い難いけど。


 俺に対しては1巡目では4シームで押してくる。俺がうまくさばいて右中間に二塁打。2巡目は左飛。ちょっと回転にクセがあるのかな。3巡目は2球目に打ちごろのチェンジアップ。迷わず振りぬいて5号2ラン本塁打。


4月21日(木)


 今季2度目の先発。今日は右投げ。肩は軽いが身体が少し重い。やっぱり投手で先発する前日は指名打者にしてもらうべきだったかも。


 もちろん、投球フォームは魔法制御のためコントロールが体調に左右されないが、ボールの回転数を確保するために球速を若干抑えめにしていた。球審も渋めの判定をする人でボール判定のせいで四球になったりして6回3失点。最高球速が160km/hに届かなかった。しかも味方が2点しか取れず、敗戦投手に。たかが1敗に一喜一憂するほど俺は……でも悔しいわな。


 ベンチコーチのデイブに相談すると「そういや去年も夏にスタミナ切れ起こしてたな。少し起用を考えるように監督ジョーに言っておくから」とのこと。


4月22日(金)


 今日からアウエーでの対トロント3連戦。やはり同リーグ同地区チームとの対戦は選手的には違発奮材料が多い。とりわけ昨季本塁打王を巡って争ったバチスカーフのチームだ。しかもバチスカーフご本人が俺を「表敬訪問」してきた。地元マスコミを引き連れて。本塁打王のタイトル獲得で一気にスター選手になった感じだ。


 訪問と言ってもただの「挨拶」程度。日本人選手同士が日本の報道陣の前ですることとそう大して変わらない。というか俺に「仲間意識」を感じるところに彼の「闇」みたいなのを感じてまう。枠的には「スペイン語話者枠」なんだろうか。


 今年の目標本塁打数を聞かれる。

「62本ですよ。」

あっさりと答えてやる。これがア・リーグ記録61本を超えることを意味する。その記録は昭和36年にロジャー・マリスが作ったものだ。当時のマリスが超えなければならなかったのは「野球の神様」ベーブ・ルースが昭和2年に達成した60本塁打。

記録達成前には相当な嫌がらせがあったという。「白人」同士でさえこれだけの軋轢あつれきがあったのだ。「ヒスパニック」のバチスカーフと「黄色人種アジアン」の俺が挑むからにはもっと大きな波乱が待ち受けているだろう。


「今日は正々堂々と戦おう。」

バチスカーフがかっこよく決めた時点で

「あ、実は俺、今日は『休養日』なんですよ。昨日先発投手だったもんで。」

日本ならみんなズッコケるんだろうなぁ。


 試合は両チーム譲らず4対4で延長戦に入る。俺も10回表に二死無走者の場面で代打で起用されたものの「申告敬遠」されて終了。果たして「正々堂々」とは?チームもサヨナラ負けしてしまう。


  沢村健の今季の成績。


打撃

(左)打席25 打数22 安打11 単打1 二塁打3 三塁打1 本塁打4 打点11 四球3(敬遠1)

(右)打席8 打数7 安打3 単打1 三塁打1 本塁打1 打点5 四球1(死球1)


合計 打席33 打数29 安打14 単打2 二塁打4 三塁打2 本塁打 打点16

四球4(死球1敬遠1)

打率.483 出塁率.545 長打率1.276 OPS1.821


投手

(左)試合1(先発1)9回 失点0 防御率0.00 1勝0敗 QS1 被安打5 四球1 三振10 WHIP 0.667(非常に良い)

(右)試合1(先発1)6回 失点3 防御率4.50 0勝1敗 QS1 被安打5 四球2

三振6 WHIP1.167(良い)


合計 試合2(先2)15回 自責点3 防御率1.80 1勝1敗 QS2 被安打10 四球3

三振16 WHIP0.933(とても良い)









 


 


 


 



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