【7回の裏】チームの空気を換えるには。

4月12日(火)


 昨日の「日本人対決」は大いに盛り上がった。特に日本人にとって暗雲のように垂れこめる悪いニュースの中で沢村の「サイクル安打達成」は輝きを放っていたと言える。


 今日の対戦はボストンの左のエース、ラスター。これまで沢村は右投手相手に好成績を収めていたが対左投手の右打席に注目が集まる。1番指名打者で先発出場。


 1巡目の打席はフルカウントから外角低めいっぱいへの4シームをひっかけて二ゴロ。間違いなくこれがこの試合のラスターのベスト投球ショットだった。


 そして3巡目の5回。ラスターは3打席連続単打を許し一死満塁。この好機に沢村。右打席。ほぼど真ん中に行ったシンカーをたたく。グリーンモンスターを嘲笑うかのようなレフトへの2号満塁本塁打グランドスラム。しんと静まりかえった観衆の目の前で悠々とダイヤモンドを一周する。これが決勝点となり2対4で勝利。レイザースは今季初の連勝。


4月13日(水)


 早々に雨天中止が決定。代替試合の日程はのちに発表とのこと。レイザースナインはセントピートへの帰路に就いた。


4月14日(木)


 「買ってから初めて新居でゆっくりしましたよ。」

 沢村は試合前のインタビューで言った。そう言えばキャンプ中もホテル暮らしだったし、開幕一軍のはずが「震災の精神的ショック」などというその時地球の裏側にいた人間にもかかわらず「謎めいた病名」で遠く離れたダーラムでのマイナー暮らしを余儀なくされていたからだ。


 ちなみに昨日の晩、私は夫のマシューと一緒に彼の家に夕食に招かれていた。昨季マネージャーを務めたマシューは「昨年の俺より待遇がいいじゃないか」とおかんむりだったがベンさんは彼の身体のケアもできるわけで当然と言えば当然の待遇差だ。

家事は週に何度か近隣に在住する日本人何人かにアルバイトでお願いしているそう。


 対戦カードはミネソタ・トワイライツ4連戦。ア・リーグ中地区のチームなので地区交流戦インターディビジョンとなる。沢村は6番指名打者での出場。


 相手先発は昨季17勝をあげたベテラン右腕カール・パルバーノ。ベテランらしい巧みな投球術ピッチングでレイザース打線を手玉に取る。無得点のまま9回。マウンドには一昨年のア・リーグのセーブ王ネイサンズ。


 一死二塁一塁。打順はくしくも沢村に。思わずコーチがマウンドまで来るがまさか「セーブ王」に替えがきくわけもなく。2Bからの3球目の外角低めへのシンカーは惜しくもライトポールの外側に。3B1Sからの5球目3球目と同じコースへの4シーム。


 沢村の一振りはバックスクリーンへのサヨナラウオークオフ3号3ラン本塁打。彼のホーム初の本塁打に観客も大興奮。……ただ1万人しかいなかった。開幕からの不甲斐ない連敗がたたって観客数がごっそり減っていたのだ。ただでさえ不人気球団なのに。報道陣から「ここからチームをどう立て直すのか?」そう尋ねられた沢村は

「それは選手個人の仕事じゃないですよね。チーム全体として取り組む問題ですし、その責任のすべてはベンチとフロントが負うべきものです。僕たち選手はベストパフォーマンスをするだけです。それが僕の果たすべき役割、責任だととらえています。」

と苦笑していた。GMアンディ・フリーマンはこの青年をなめすぎた、そうとしか言いようがない。


4月15日(金)


 今日はジャッキー・ロビンソンデー。


 普段は全階級の全球団が永久欠番にしている背番号「42」をベンチ入りする選手・コーチ・審判員全員がつけてプレーするのだ。日本語の語呂ではもっとも「縁起の悪い」数字なのだがアメリカでは「憧れの」番号でもあるのが面白い。


ただ審判員は「背」番号ではなく「袖」番号ではある。


 沢村は3番指名打者での先発。ついにクリーンアップに復帰。適時タイムリー二塁打を含む2安打1打点で5対2のチームの勝利に貢献。


 ちなみに一日限り着用の沢村のユニフォームはインターネットオークションにかけられ、売り上げは東日本大震災の支援基金に寄付されることになっている。


4月16日(土)


 沢村は今季初先発投手。左投げだ。相手の先発は昨季12勝の右腕パーカー。

試合は息詰まる投手戦に。特に沢村は縦変化のスライダーの落差が素晴らしく当てるのが精一杯の打者も多かった。(もっとも当たれば力任せにヒットにできるパワーがある打者がいるのもメジャーならではである)。ただ球審は内角低めをストライクに取らなかったためやりにくかったようだ。


 沢村はもらった2点を守り切り、120球を投げて5安打1四球で今季初完封。先発投手としての価値を改めて証明する形になった。これで沢村復帰からチームは6連勝。まさにレイザースにとっては救世主である。



 沢村健の今季の成績。


打撃

(左)打席15 打数15 安打8 単打1 二塁打2 三塁打1 本塁打2 打点7

(右)打席3 打数3 安打2 単打1 本塁打1 打点4


合計 打席18 打数18 安打10 単打2 二塁打2 三塁打1 本塁打3 打点11

打率.444 出塁率.444 長打率1.167 OPS1.611


投手

(左)試合1(先発1)9回 失点0 防御率0.00 1勝0敗 QS1 被安打5 四球1 三振10 WHIP 0.667(非常に良い)










































































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