4月、俺不在のチームが開幕ダッシュで大コケ!立て直せるか?

【6回の表】「ざまぁ展開」へ。

4月4日(月)


 ドンゴの故障ケガは「左斜筋挫傷」。いわゆる「肉離れ」のことだ。最悪ではなかったが軽くはなかった。2週間の故障者リストに入る。監督が言うには医者の診たてでは復帰までは一月ほどかかるだろうというものだった。


 これは当然俺の出番か。そう思ったのも束の間、上に呼ばれたのは今季加入したロペスだった。彼のオープン戦の成績は悪くはないものの、どう考えても実績も成績も俺の方が上やろ。


「私も監督ジョーも健を推したんだけどねぇ。GMアンディかたくなでねぇ。」

モンテーロ監督は申し訳なさそうに言った。


 ロペスはマイナー契約だったため、枠を空けるために同僚の投手のエックルスがメジャー契約を解除されてまった。当然のことながらなんの落ち度もなく枠外へと押し出されたエックルスが無茶苦茶荒れていた。


4月6日(水)


 明日からの本拠地での開幕に備えてダーラムへと向かう。移動手段はもちろんバスだ。いきなり12時間のバス移動。これがマイナーリーグの洗礼である。そして、車内でレイザースが5連敗を喫したニュースが入ってくる。とにかく打線が不調で6試合でわずか8得点だけ。「打線は水物」とはいえこれはひどい。

 

 最大の原因はドンゴの離脱、そして俺を使わないことだ。昨季合わせて70本塁打の二人がいなくなった打線など怖くもなんともない。加入したマニーとジョニーも大物とは言え双方とも35歳を過ぎ往年の威圧感はもはやない。


 監督も敗因を聞かれ、憮然ぶぜんとして「私には解決策が判っている。いるべき選手があるべき居場所ポジションを与えられていない。ただそれだけのことだ。それができない理由なら私ではなくGMアンディが知っているだろう」と声を荒げる。



 4月7日(木)


 そして開幕戦である。俺は開幕投手に指名されている。今日はアトランタ・ブレイザーズ傘下のグィネット・ブレイザーズだ。「傘下」とは協力関係にあることを示唆するのだが、この球団はブレイザーズが直接経営に携わっているのでチーム名は上と同じく「ブレイザーズ」になっているのだ。


 喜んだのはダーラムの地元ファンの皆さんだ。平日にもかかわらず早い時間帯から球場を訪れて練習を熱心に見学していた。俺は先発投手のためあまりサインに応じることはできなかったが集まった観客はなんと9000人超え。収容人数キャパが12000人の球場だからほぼ満員と言っていい。


 地元にある名門私大の音楽科の学生による国歌独唱の後、続けて日本の大震災のために君が代もサプライズで独唱してくれた。俺がいたこともあって気を遣ってくれたのだろう。ちょっと泣きそうになった。始球式のあとマウンドへ向かう。上がる大歓声。「SAW」のサインボードで応援する観客もちらほらと。ありがたい限りだ。


 7回を投げて打者21人に対して85球、無安打無四球のパーフェクトピッチ。

モンテーロ監督に「せっかくだし完全試合を狙ってみるかい?」と続投も打診されたが「記録をめざすのはここじゃないんで」と断った。


 マウンドを降りたときにはちょうど「私を野球に連れてって」の斉唱と花火。

ただチームは終盤ブルペン陣が踏ん張りきれずに1対2で敗戦を喫したが俺は十分にアピールできた。


 ちなみにレイザースは泥沼の6連敗。ニュース映像で観たみんなの表情は苦渋に満ちていた。


4月8日(金)


 試合前、打撃練習の順番待ちをしているとブレイザーズのユニフォームを着た選手が近づいている精悍な黒い肌をしていたその選手はフリオ・テーラン。今季開幕前の有望株プロスペクト全米ランキングで4位に推された男だ。


 彼は平成3年の1月生まれなので日本でなら同級生。ちょっと嬉しい。昨季はAAだったが今季は開幕からAAAに昇格した。

「レイザース、調子悪いなぁ、もう終わったな。」

 初対面でずいぶんとまあ失礼やろとも思うが「ラテン系」の人間のノリは大抵そんなもの。

「まだ始まったばかりだって。今の体たらくは俺を使わんからしゃーない。身内ながらざまぁとしか言いようがないわ。」

彼は俺を指さして宣言する。

「とりあえず今日は俺もお前を抑えて上にアピールさせてもらうぜ。」


 俺も3番指名打者で先発出場。前日に無理して投げつづけなかったのは今日も打席に立ちたかったということもある。テーランが言うように彼が俺を抑えれば良いアピールになると思うが、俺が彼を打っても良いアピールになるのだ。その好機チャンスは初回に訪れる。球で塁に出たデズを二塁に置いて俺が左打席に入る。


 流石にランキング4位と言われるだけあって力のある良い投球ボールだ。ただ制球コントロールが定まらないのかストライクとボールがはっきりしすぎ。3B1Sからの5球目真ん中高めの4シーム。ライトスタンドへの1号2ラン本塁打。


 俺の筋力が上がっているからなのかバットが軽く感じた。レフトスタンドの球団マスコットの「バレットくん」のオブジェのけつからスモークが噴き出す。バレッツに本塁打が出るとこの演出が行われるのだ。弾丸バレット薬莢やっきょうを切り離して発射されるのだからおかしいと言えばおかしい。


 テーランとの2度目の対決は3回。二死で走者二塁。真っ向勝負をしかけてくる。その意気や良し(上から目線でスマン)。しっかりと回転のかかった4シーム。だがコースは激甘。魔法で理想形に制御されたフォームでしっかりと打つ。


 打球は見た瞬間に本塁打とわかるもの。2打席連続の2号2ラン本塁打。打たれたテーラン自身は悔しそうではあったが圧倒されたようではなさそう。おそらく4シームで俺(昨季新人王)にどこまで通用するか試したかったのだろう。まだ俺には変化球があると言いたげだった。


 今日はさらにに二塁打と単打を加えチーム初勝利に貢献。ちなみにレイザースもようやく打線に火が付き、今季初勝利を挙げた。


 


 

 


 


 




 


 


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