【4回の裏】支援と私怨が混ざる時
3月11日(金)(松崎亜美)
午後2時46分だった。会議室で新入部員の受け入れ会の真っ最中だった。突然突き上げるような激しい縦揺れ。私が今住む茨城県も日本でも地震が非常に多い地域ではあるが、私の人生では一番強くそして長い長い揺れだった。
とっさにテーブルの下に見を隠す。テーブルの上のものが跳ねて落ちる。これ死ぬ可能性もあるかもという恐怖に襲われた。勝手に「走馬灯」のように私の短い一生を振り返るくらいには恐ろしかった。
永遠とも思えた揺れの後、テレビをつければ震度5強。その後何度も激しい余震が押し寄せ、生きた心地がしない。すぐ実家に電話をかけてお互いの安否を確認したが、その後まったくつながらなくなってしまった。
一旦、自室に戻ると部屋の中はめちゃくちゃになっていた。呆然としているところで通信魔法でケントさんから通信があった。私の実家の様子を妖精で調査してくれたらしく詳しく教えてくれ少し安心できた。こういう時に魔法を自在に操れる人がいるのは頼もしい。
3月12日(土)
衝撃的な映像がTVを通して次々と流れ込んでくる。「絶望」という言葉を具現化したかのような映像にまさに「絶句」する。そこにケントさんからの通信があった。
「亜美、キミにお願いしたいことがある。私は被災地支援に行きたいと思うのだがキミも手伝ってくれるかい?」
突然の申し入れに驚いてしまう。
「私、なんにもできませんけど。」
「そんなことはないキミには素晴らしい
私には「収納魔法」がある。ケントさんは自家用ヘリコプターを所有しているので物資の運搬を手伝って欲しいとのこと。ただ、これだけ混乱してサプライチェーンが寸断された状態でどうやって物資を調達するのだろうか?そこもケントさんには秘策があった。
「もちろん、ボクのヘリコプターなんて運搬用じゃないからね。そこで健とキミとの間の『ホットライン』を利用させてもらいたいんだ。幸い健にはベンがついている。彼にアメリカで必要な物資を調達して健とキミを通して送りこんでもらうんだ。どうだろう?」
なるほど、私の持つ魔法とよべるかどうかの「些細な」力にもそんな使い方があるのか。
3月13日(土)
「なるほど、俺たちの魔法が『密輸魔法』になるのか。」
健のリアクションには少しとげがあった。
「ちょっと、その言い方!」
「ごめん。こっちでも日本人選手で募金運動を始めたんだけど俺にももっとできることがあったんやな。なんか自分がやってもらうことしか考えていなかったから少し恥ずかしかったわ。」
もちろん健もショックを引きずっているだろうから言葉が粗くなるのはわからないせもない。それにケントさんからすでに打診があったようでベンさんが準備を進めているようだ。
3月16日(火)
健に元気がなかった。理由を聞けば「マイナー落ちが決まった」(作者註)とのこと。昨季の打点王でオープン戦では目下チーム打撃部門三冠なのに?理由は日本での地震による「精神的な疲労」。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負う恐れもあるということらしい。
「俺が直接被害に遭ったわけではないし、亜美も家族もみんな無事なのに笑っちゃうよ。なんとか俺がFA権を取るのを1年伸ばしたいみたいなんだけどな。あまりに露骨すぎるよ。むしろ
ちなみに健の実家にある「沢村健記念館(仮)」の展示物はかなりめちゃくちゃにひっくり返っていたということはすでに本人の耳にも届いているらしい。
さらには練習後に「
大学の許可をもらった私はケントさんに同行して各地の避難所を回ることになった。ケントさんが用意した物資も私の収納魔法空間に積み込みいざ出発。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(作者註)
本来はGMは沢村健を「故障者リスト」に含めるべきでしたが選手側から「指摘される」まではマイナー落ちにしておこうという機転が利いていました。GMもシーズン全体にわたって彼をマイナーに押し込めておこうという気はさらさらなく「2か月」程度マイナーに隔離できれば「上々」という計画です。
もちろん、代理人たるケントにも対抗策がないわけではなく、小細工(オペレーション)に対抗できる制度があるわけなのです。それが「スーパー2」制度。5期があればそれがキーワードになることでしょう。
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