【4回の表】未曽有の大災害。
3月11日(金)
夜中の1時過ぎ、完全に俺は夢の中だった。
ホテルの俺の部屋の扉を荒々しくノックする音で俺は目を覚ます。ベンKさんが珍しく慌てた様子だった。
「健、大変だ。日本でとんでもない地震がおこったぞ!」
日本で地震なんてそう珍しいものではないはずだが。
日本時間午後2時46分。 三陸沖を震源としてマグニチュード8.0(のちに9.0に)、最大震度7(福島県内は震度6強)という日本観測史上最大規模の地震が発生したのだ。 激しい揺れが起き、大津波が東日本の沿岸部を襲い、原発事故が起こった。のちに「東日本大震災」と呼ばれる大災害であった。
連絡はケントから通信魔法で入ったようだった。ベンKさんの実家は岩手県だったはずだ。
「実家は内陸だから無事なのは間違いないとは思うが通信が寸断されていて連絡がつかんのだ。親戚に関してはもはや確かめようがない。」
今はアメリカに家族がいて実家には父方の祖父母が住んでいるだけらしい。
とりあえずケントに通信魔法で連絡を取る。ケントなら「妖精」を使って偵察も可能なはず。ケントはすでにお見通しだったようだ。
「とりあえずキミのご家族も亜美も無事だよ。そしてベンの家族もね。今は災害全体の情報を収集中だが真実が明らかになればなるだけ愕然とするよ。健も日本のことが心配だとは思うがシーズンの準備に集中してくれ。ただし、
日本の様子はすごく気になるがそうも言ってられない。逆に球場に行ってそこに居合わせる日本の報道陣からも情報が得られるかもしれない。災害時のインターネットだけの情報収集は真偽があやふやなことも含めリスクも伴うからだ。
そこで見せてもらった被災地の映像はあまりにもショッキングであった。さすがに練習になりそうもなかったため監督に休みを言い渡されてしまった。
心配そうなアメリカの報道陣に説明する。
「私の家族に関してはみな無事だということは確認できています。これから被災地へどんな支援ができるかスタッフを含めて相談をしているところです。」
昼前にボルチモア・オーソドックスの植原さんから電話があり、日本人メジャーリーガーも協力して被災地への募金を訴えることになった。
3月12日(土)
今日から練習に復帰。チームメイトに家族の安否を心配されたがみな無事であることを告げるとホッとされた。彼らの脳内では日本全体が津波にさらわれたかのように思っている人が多い。日本がアメリカと比べて「小さい」のは事実だがそこまでではない。
とりあえず練習試合の前後に募金箱を抱えて頭を下げることになる。
アメリカでもショッキングなニュースとして取り上げられており、またチャリティの文化が根付いているアメリカだけあって多くの金額が集まった。地元セントピート近郊のクリアウォーター市の球場だったので地元のファンも多く浄財を寄せてくれた。
3月13日(日)
日本のマスコミとの記者会見で被災が甚大だった自治体である福島、宮城、岩手県に総額1億5000万円の寄付を表明。日本でのこれまでのCM出演等の稼ぎはほぼ吐き出したことになるが、どうせ半分以上は税金でもっていかれる金。ここがケントの言う「金の遣いどころ」ではある。
3月15日(火)
今日は練習試合がホームなので朝からみっちりと練習。しかし昼前に監督室に呼ばれる。ん?監督室に呼ばれる理由が思いつかない。打っては打率打点本塁打はチーム三冠王。投げても3試合で10イニング無失点と完璧。これまでにないキャンプ・オープン戦成績なのだ。
部屋に通されるとGMのアンディがいた。嫌な予感がする。はじめに日本の地震・津波・原発事故へのお悔やみ、そしてその後の俺の被災地支援活動に関して
「健、きみも故郷の災害で精神的にかなり疲れているだろう。少しの間、マイナーリーグで調整するといい。」
信じられない言葉。つまりマイナー落ちの宣告なのだ。それにしてもあまりに理不尽な理由に怒りで脳が沸騰しそうになるのを必死にこらえる。
「いいえ。ご心配にはおよびません。トレーニングの疲労が全くないとはいいませんが、それでも身体の動きはいいですし、成績だってあなたにも十二分に納得いただけるものを残しているはずですが。」
さすがの俺もにらみつけたくなる衝動を抑えつつアンディの顔を真っ直ぐに見ながら訴えた
「いや、これは決定事項だ。キミはまだ若いから自覚がないかもしれないが、精神的なストレスを軽んじるとそれはやがて蓄積されてキミの心を
まあ、マイナー落ちと言っても練習場所がメイン球場からサブ球場に移るだけなんだけどね。みんなに告げると当然ながら驚いていた。
「
「いや、
1年ぶりに会ったAAAバレッツのモンテーロ監督は俺を見て穏やかに笑った。
「アンディに『してやられた』ようだね。もしキミが日本への支援をしたいのだったら時間が取れるようには協力するよ。」
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