第19話 思惑クロスロード

 もっと下地を薄くつけて、あ、ファンデもちょっとの間やめてみようかな。

雑誌のナチュラルメイクのコツとにらめっこしながら、色々メイクを試している。

どうしたらもっと、ザ・清楚って感じになれるんだろう。

服装、っていっても基本ずっと制服だし、優妃ちゃんにきいても答えは見つからなかったし…。


 コンコン、と部屋をノックする音。

 「瑠々ー。晩御飯できたよー。」ママの声。

 「はーい。」と返事して、一階のリビングに向かいます。

 「わ!オムライスだ!やったー!」

 「瑠々がそう言ってくれるとママ嬉しい。」

もぐもぐ、大好きなママのオムライスは、あっという間になくなってしまいました。

 お腹いっぱい。やっぱりご飯を食べているときって、本当にしあわせ。


 「ママ、ちょっと相談なんだけどね、」

と、ソファでテレビを見ているパパに聞こえないように、小さな声でシンクに立つママに言いました。

ママは私の気持ちに気付いてくれたようで、

 「うん、それじゃ瑠々の部屋で待っててね、すぐ行くから。」

とこたえてくれました。

 

 コンコン、と今度は小さなノックで、

 「瑠々、入っていい?」

とお母さんの声がします。

 「はーい。」

と返事をすると、小さく扉を開けて、ママが入ってきました。

 「瑠々、どうしたの。」とママ。

 「どうやったら、清楚な女の子になれるかなあ。」と打ち明けました。

五月に雑誌に載ったとき、あんなにはしゃいでいた私が、これほど迷っているとは、多分ママも知らなかったと思う、バレないようにしていたから。

  

 「ママはね、」と少し考えてから、

 「ママの意見なんてね、何のアドバイスにもならないと思うけれど、こうして瑠々が悩みを話してくれたことがまず嬉しい。」と言いながら、背中をそっと撫でてくれました。

 「これだ!っていう正解は、ママも分からない。けれどね、最近の瑠々、少しずつ変わってきているのは、ママ、気付いてた。」

 「え、」と私。気付いてたのかな、悩んでいたこと。

 「だって最近、瑠々、テーブルの上の料理を皆に分けてくれたり、ママ料理教えて!ってきたり、瑠々の成長、ママは誰より分かっているつもり。」と言って、私の目をしっかりと見つめて、

 「だから瑠々、瑠々はきっと、清楚への成長期、なんだと思う。成長痛は辛いけれど、きっといつか、自分が本当に大好きな瑠々になれる日がくると思うの。」


 気付くと、視界がぼんやり、ぼやけています。

泣いてしまったのです、ママがずっと、私を見てくれていること、そして、私が清楚へと変わろうとしている努力に気付いてくれていること。

 「瑠々はずっと瑠々、大丈夫、ママでよかったらいつでも話してね。」

そう言って、子どもの頃のように、ずっと背中を撫でてくれていました。


 泣いたら、少しだけすっきりしました。

お風呂に入って、好きなテレビを見ながら、いつもの大好きな、高級アイスを食べました。おいしい、しあわせ。


 「あれ、俺の分のアイス…。おっかしいなあ…。」パパが戸惑っています。

 「あ、瑠々!二つ目食べてるなー!もう…。」あきれるパパ。

 「だってパパがメタボになんないようにだもん!」

 「瑠々~!」とママ。

 「だっていつまでも、スリムなパパでいてほしいんだもん。」

 「そ、それもそうだな、確かに気を付けないとな…。」と頬をぽりぽり掻くパパ。

 「うそだよ~。」と私。

 「もう!パパすぐ本気にするから面白いんだもん。」思わずニヤリ。

 「まったく…、でも、パパの脂肪より瑠々の栄養の方がよっぽどいいもんな。」

 すごすごと洗面所へ行って、歯を磨くパパ。

 「パパ、ほんと瑠々に弱いよね。」とママがこっちに来て言いました。

 「ほんと、パパいつも通り。」と小声で答える私。

 

 「聞こえへるほー。」と、歯磨きしているパパの声。

 ははは、とママと二人で笑いました。


明日は、どんなお洋服で、どんなメイクで、学校にいこうかな。

清楚のアンサーは答案用紙にまだ書き込めないけれど、すこしずつ、


伊勢寺瑠々らしく、明日もっとかわいく、ヒロイン目指して修行するぞ、オー!



つづきます

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黄昏チョコミント 黑杜未寧子 @Kuromori_Mineco

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