第16話 11日の土曜日
光陰矢の如し。夏はもっと速し。17年間、夏だけはすぐにどこかに行ってしまう気がしています。
瑠々ちゃんの鶴の一声で始めた夏ビンゴ。
開いた穴はまだ河川敷のBBQだけです。何かないかな、と考える日々です。
そんなある日、家のポストに一枚のチラシが入っていました。
”7月11日(土曜)、入園料無料のお知らせ”
それは、家からほど近い大きな大きな公園の、無料入園のお知らせでした。
入園料がかかると、ちょっと誘いにくい私ですが、無料なら気軽に誘えそうです。
誘えるよね、多分。がんばろう。
そう決意を固めて学校へ向かいます。
ジリジリと照らす日差しが、コンクリートを揺らします。
その中を、重いバッグと軽い気持ちでスタスタと歩いていきます。
「あ!優妃ちゃんおはよー!」「おはよー!」と、なんと羽村さんと瑠々ちゃんが一緒に廊下で話していました。
「ちょうどよかった!」と瑠々ちゃん。なんだろう。
「ねーこれ見て!」と、羽村さんに後ろを向かせます、
え、すごい。羽村さんの後ろ髪が綺麗に編み込まれています。
「は、羽村さん、めずらし…」と思わず口から出てしまいました。
羽村さんは、綺麗な髪をいつもおろしていて、たまに結ぶ程度なのです。
「ち、ちがうよー!」と羽村さん。
「これは瑠々が練習させてーって勝手に!」
「えー、あんなにノリノリだったのに?」とにやりと笑う瑠々ちゃん。
「いや、いざこうなってしまうとなんか照れる…かんじ?いつもと違うから変じゃないかな、似合ってるのかな…とか色々ね。」と羽村さん。
こんなシーン、あったなあ。
ふと、きゃらめりぜ先生の黄昏チョコミントを思い出します。
ちょっと状況は違いますが。
ヒロインの女の子が、「これ、似合ってないよね…。」と言うのに対して、
似合ってるよ、かわいい。と頭をなでる、というシーン。
「似合ってると、私は思うよ…?」
あのシーンよりだいぶマヌケな台詞になってしまいましたが、合格点…かな?
頭をなでる、なんてね、私はそんなイケメンにはきっと、なれなさそうです。
「ほらー!似合ってるって!優妃ちゃんが言うんだから間違いないよ!」と肘で羽村さんを小突く瑠々ちゃん。
「瑠々テンションあがりすぎ!もう!」とお返しに瑠々ちゃんを小突く羽村さん。
目の保養です、すっごくかわいい友達二人が、仲良くじゃれ合っている。
でもそれは液晶越しでも、紙面越しでもなくて、私が今生きている目の前の世界で。
出演権くらいは私だって持っているはずです。きっとそうです。
「あのさ、チラシ見た?」と私の出演。
「あ!」「あ!」と瑠々ちゃんと羽村さん。
「それ言おうと思ってたの!羽村ちゃんの髪の毛触ってたら忘れてた…。」
と、瑠々ちゃん。髪の毛さわ、あ、そういえばそうでした。
「同じく?ではないか、忘れてた!」と羽村さん。
「絶対、夏ビンゴのマス、見つかるよ!」と私。言えました。今日はえらい。
「たしかに!」と羽村さん。「夏は急げっていうもんね!」と瑠々ちゃん。
「それを言うなら善でしょ…」と羽村さん。
そうこうして11日の土曜日に、公園に行くことになりました。
すぐ近くなので、約束は10時になりました。大きな公園なので、たっぷり時間をとって。
よかったなあ、もし羽村さんだけバイトのシフトが入ってたらどうしようかと…
11日が今から待ち遠しいです。
つづきます
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